スーパーで見つけた謎食材を食べる Vol.1―高知の巨大植物「はす芋」―

日ごろお世話になっているスーパー。スーパーは基本的に、その地域の文化圏にフィットする、親しみある商品が売られている。しかし、たまに見慣れない異文化の商品が紛れていることがある。

 

最近、「はす芋」という謎の食材をみつけた。この記事は、これまでスルーしてきた謎食材を初めて買って、調べて、調理してみたレポートである。

 

 

「茎っぽいのに芋」とはこれいかに

 

カレーの食材を買いにスーパーに行くと、見たことのない野菜が陳列されていた。

 

何かの植物の茎みたいな。やけに大きくて、インパクトがある。なのに、値段はひとつ98円。安い。

ぶっとい茎みたいな何か

 

名前を見れば「はす芋」とある。

 

 

「芋?このビジュアルで?どこが芋なんだ?ほくほくしてるのか?なんだこれは」

 

 

気になったが、その日はスルーした。スーパーは基本的に、買いたいものをあらかじめイメージしてから行くとこである。なので、謎の食材を見つけてもスルーしちゃうのだ。謎だから。

 

 

数日たってまたスーパーに行くと、まだ彼らがいた。

 

 

半額になっとる!!しかもほぼ手付かずのまま!!!!

 

 

やはりというか、私だけでなく、ほかの人にとっても謎の野菜だったのだろう。しかし、ここまで見事にスルーされていると、逆に気になってくる。

 

売れ行きからみて、このスーパーで、再びはす芋が入荷されるかどうかはかなり怪しいところだろう。別のスーパーで、売ってるのもみたことがない。かといって、いろんなスーパーをまわって探したり、はす芋が売られている場所を調べてわざわざ買いに行くほどの情熱もない。謎だから。

 

つまり、この機会を逃すと「はす芋ってなんだったんだろう」と思いながら、何年も過ごすことになる可能性が極めて高い。さくっと謎を解くなら、今しかないのだ。

 

はす芋を前に、「どうする?アイフル?」状態になること約30秒、私は、2パック買うことにした。

 

 

はす芋の正体を調べる

 

家に帰ってまず、はす芋のことについて調べてみた。分かったポイントは、以下の通りである。

  • はす芋は、サトイモ科の植物である
  • 高知県の特産品である
  • サトイモ科だが、食べるのは芋ではなく葉柄(葉と茎の間にある柄部分)
  • 火を通してもシャキシャキしているのが特徴

 

メジャーな食べ方としては、生のまま和え物にしたり、出汁と一緒に煮たりするらしい。“火を通してもシャキシャキしてる”というのが気になるので、色んなレシピサイトで出てくる「はす芋と油揚げの煮物」を作ってみることにした。

 

 

みずみずしいシャキシャキには棘がある

いざ、はす芋を調理していく。

皮をむく

はす芋の皮は、先端にちょっと包丁を入れると、そこからさけるチーズみたいな感じで剥くことができる。シュルシュル音を立てながらビーっと一気に剥く感覚、めっちゃ気持ちよい。

びーって剥ける

とりあえずそのまま食べてみる

はす芋は、生でも食べられるらしい。薄切りにして、一切れ食べてみることにした。

包丁で切ると、「サクッ!」と、これまた小気味よい音がする。断面は、スポンジみたいに細かい穴がたくさん空いた、不思議なビジュアル。

 

理科の授業、顕微鏡で見せられた葉っぱの断面図がこんな感じだったな。

 

 

食べてみると、なるほどシャキシャキしている。いや、シャキシャキを通り越してサクサクしてる。植物がここまでクリスピー感を出せるものだろうか。面白。

味は、瓜に近い。メロンの端っこの、一番味がうすい部分みたいな。とても淡白な味わいである。生だと、正直おいしさがよくわからない。

 

 

下ごしらえをする

 

はす芋は一応生でも食べられるが、下処理をしたほうがよさそうだ。

 

というのも、はす芋には「シュウ酸カルシウム結晶」という成分が含まれていて、この結晶が針のような鋭い形をしているらしい。何も知らずに素手で触りまくったりすると、この細かな針が細胞に刺さりって、ピリピリした痛みを引き起こすことがあるそうだ。怖っ。

シュウ酸カルシウム結晶の結晶。命を刈りとる形をしている(画像は『シュウ酸カルシウム針状結晶とプロテアーゼの相乗的耐虫効果』より引用)

 

「生のままで食べる場合は、塩水にさらし、加熱する時は一度茹でると良い」、とのことなので、今回はゆでることにする。

鍋に入れると、あらためて「ぶっといな」と思う

 

油揚げとともに煮る

 

ゆでて水気を絞ったはす芋を、薄切りに。そのまま、油揚げと一緒にだし汁で煮る。

 

ひと煮立ちしたら、あっという間に完成だ。

 

 

 

いざ実食。

完成したものがこちら

これが、はす芋のスタンダード

 

いい感じではないか。早速食べてみよう。

 

 

あっ、うまい!!!(写真とるの忘れた)」

 

スポンジ状の空洞のおかげか、はす芋がたっぷり出汁を吸っている。「出汁をたっぷり吸うために、あの形になった」と考えるほうが自然だな、と思うレベルでよく吸っている。噛めば噛むほど、だしがしみだしてくる。美味しい。

 

確かに、火を通してもなおシャッキシャキだ。煮物なのにシャッキシャキ。今まで味わったことのない不思議な食感。面白い。

 

はす芋そのものは淡白な味だから、はす芋の味わいを楽しむというよりは、色んな出汁や調味料、食材と組み合わせて食感を楽しむタイプの野菜なのかもしれない。

 

 

はす芋が何かはよくわかったが・・・

 

はす芋が何者で、どう調理すればよくて、どんな味わいなのか。すべての疑問が順当に解決した。ありがとうはす芋くん、君が何者はよくわかった。そのうえで問いたい。

 

 

鈴木「君は、ほかになにか面白いことできないのかね」

 

はす芋「えっ」

 

 

はす芋のほかのレシピは、検索するといくつか出てくるが、まず情報の絶対量が他の食材に比べ圧倒的に少ない。加えて、調理方法にそこまでバリエーションがないのだ(和える、煮る、生のまま添えるくらい)。広くメジャーな食材なら、洋風・中華風など国籍をまたいだ調理法も豊富に出てくるが、はす芋についてはゼロ。

 

はす芋「面白いことといいますと」

 

鈴木「たとえばほら、洋食になるとか」

 

はす芋「えっ」

 

 

どうせ記事にするなら、新しいこともやりたい。ということで、残ったはす芋を使って、ビシソワーズ(冷たいジャガイモのポタージュ)を作ってみることにした。

 

はす芋、文化を超える

ビシソワーズの作り方は簡単。

 

 

1,みじん切りにした玉ねぎと、薄切りにしたジャガイモをバターで炒める

 

2,水と薄切りにしたはす芋を加えて、ジャガイモが柔らかくなるまで煮る

うっすら焦げ目がついているのが、はす芋

 

3,2でできたやつを、フードプロセッサーにかける

 

4,なめらかになったものを再び鍋にいれ、牛乳と混ぜてひと煮立ちさせる

 

もはや、はす芋の跡形もない

 

5,完成したものを、冷蔵庫で冷やせば完成

 

 

ようは、プレーンなビシソワーズに、はす芋を加えた改良版だ。

 

そもそも、水分量が多いはす芋を、ミルク系と合わせて大丈夫なのか。はす芋の味わいは淡白である。フードプロセッサーで細かくしたら、アイデンティティであるシャキシャキ食感も消えて、マジで普通のビシソワーズになるだけではないか。

企画倒れになりそうな予感をビシビシ感じる中、とりあえずビシソワーズが完成した。

 

完成、実食。意外や意外

 

完成したビシソワーズがこちら。

 

 

食材を粗びきにしたので、全体的にとろりとしている。いざ実食。

 

 

 

 

 

おぉっ!シャキシャキしてる!!!マジか!!!!

 

 

なんと、はす芋は細かくプロセスされてなお、シャキシャキ感を残していた。余ったはす芋を使ったので、ジャガイモと玉ねぎの量に対してその割合は少ないはず。なのに、一口食べるごとにちゃんとシャキシャキするではないか。すげえ!!!

 

 

そして、味のほうにも、ほんのりではあるが、はす芋のさわやかな風味が残っている。ジャガイモの味とも、けんかしていない(同じイモ科だからだろうか)。普通にしっかりおいしいじゃないか!素晴らしい!!

 

こうして、はす芋とのエンカウントは成功に終わった。いやあ、面白かった。はす芋、消える前に買ってみてよかった。堪能した。

 

 

謎の食材を買って、調べて、料理して、食う。日常の延長で、手軽にアクセスできる探求の楽しみを見つけた。また見慣れない食材を見つけたら、記事にしようと思う。

 

(ふ凡社家庭部)

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