こんばんは、ふ凡社 鈴木じゃよ。
2021年もデイリーポータルZさんの名物イベント「地味ハロウィン」に参加してきた。
私は2017年の初参加以来、毎年頭に地味なオブジェを乗せて参加するのを常としており、今年は「糖度の高い芋」の仮装をやった。
元ネタは、サツマイモの通販サイトとかでよくある、芋に糖度計をぶっ刺して「バナナの2倍近くの甘さを記録!」といった文句と共に、その芋が「いかに甘いか」を訴えるPR画像である。
今年、この手の広告をTwitterとかでやたら見ることが多く、妙に印象に残っていた。そのため、地味ハロウィンが近づく前から「今年は糖度の高い芋だな」と決めていたのだ。
完成した仮装は以下の通りである。
この糖度の高い芋、かなりの工夫を凝らして作ったのだが、詳細な工程を会場でご紹介することは難しい。
そのこだわりを人に知られず墓場に持っていくのも忍びないので、この場を借りて糖度の高い芋の制作記を残すことにする。
将来糖度の高い芋を作ろうと思う人が出てきたときのしるべとなれば幸いである。
まず糖度の高い芋を食べてみる
地味なオブジェ作り、最初は「実物の観察」から始まる。
糖度の高い芋の代表格と言えば「安納芋」。毎年秋になると安納芋関連の商品が大量に出回るので、それらを食べたことはある。しかし、よく考えたら安納芋そのものをちゃんと食べたことが無い。
それでは実物を食べてみようということで、東京は世田谷区にある「焼き芋専門店 ふじ」さんに行ってみた。
焼き芋専門店ということだけあって、安納芋だけでなく、珍しい品種の焼き芋がたくさん売られている。さっそく、大本命の安納芋を買った。
想像よりも小ぶりなサイズ感。また、サツマイモというとなんとなく紫色の皮のイメージがあるが、安納芋は明るい土色だ。
皮から絵にかいたように蜜がしたたっていて、食べる前から「甘いでっせ!」オーラがにじんでいる。いざ実食。
甘い!!!!!!!!!
そりゃもう甘いんだこれが。これまで加工された安納芋系のスイーツをたくさん食べてきたので正直「いうて実物は控えめの甘さなんじゃないか」と心配していたのだが、疑った私が悪かった。中身くり抜いてスイートポテトにして詰めなおしてるんじゃないかと思うほどに甘い。
「芋単体でこれだけ甘いんだから、もはやスイーツに加工する必要…ある?」という暴論が頭をもたげる。さぁ、実物の質感・甘さをインプットしたところで芋づくりに突入だ。
芋の内側をいかに再現するか
安納芋と糖度計は、主に紙粘土で作る。
まずは芋から。広い会場で遠目に見ても芋と分かるように、実物の5倍くらいの大きさで作ることにする。
まずは紙粘土4袋分を贅沢に使って、芋の大まかな形を作る。
ベースは割とサクサク作ることができたが、頭を抱えたのは「芋の内側の質感をどう再現すりゃいい(B’z調)」という点だ。何がどう大変だったか、順を追って説明する。
安納芋を観察すると、内側は繊維質であることが分かる。
紙粘土も繊維質でできている。この共通点から、紙粘土をちぎれば、それがそのまま芋の断面に近い質感になるのではないかと予想した。これについては、おおかた正しかった。
では、できあがった原型の表面をちぎりゃ解決じゃないか、と思ったが、そんなに単純ではなかった。
少しずつちぎると指の圧力が原因で、繊維質だけでなく滑らかな面があちこちに出来てしまう。かといってもともとのサイズがでかいので、表面を一気にモシャッとちぎることもできない。
原型を直にちぎる方法を断念し、ちぎって繊維質にしたパーツを別途作って、それらを原型の表面に貼り付ける手法に切り替えることにした。
しかし、やはり普通に紙粘土をちぎるだけでは大きなサイズの繊維質パーツを作ることができない。さてどうしたもんか。あれこれ試行錯誤を重ねるうちに、偉大な発見をした。
新品の紙粘土を、こねずにちぎれば良かったのだ。
新品の紙粘土は、内部に空気を多く含んでいる。なので、一切こねずに2枚おろしにするイメージで裂くと、紙粘土の表面積分の巨大な繊維質パーツを作ることができるのだ。
「紙粘土はまずこねてから使うもの」という固定観念を捨てないとたどり着けない答えだった。
こうして作った巨大な繊維質パーツを原型に貼り合わせると、素晴らしく芋に近い内側を再現できた。
続いて、芋の皮がめくれている感じを再現するために薄い皮パーツを何枚か作り、芋の周りにペタペタと貼り付けいく。そして、接合部を指で馴染ませれば・・・
芋の原型、完成。
つづいて今回の仮装の要となる糖度計。
形がシンプルなので、芋に比べてサクサク原型作りが進んだ。巨大な芋に対応するサイズの大きな糖度計型紙を作り、型紙に合わせて粘土を成型→乾燥させればできあがりだ。
芋の色合いを追求する
続いて、アクリル絵の具で芋に色をつけていく。まずは内側部分をシンプルな黄色、皮部分を薄めの茶色で塗る。これだけでも随分それらしい感じになり、テンションが上がる。
続いてデティールを詰める工程に入る。芋の内側は蜜の具合なんかによってところどころ色が濃いところがあるので、ベースの黄色よりも濃い、オレンジっぽい色を作ってぽつぽつと塗ってみる。
うーん、これだと色分けがくっきりしすぎていて、今一つリアルさにかける。もう少し薄めの色にしてやり直したほうがよいだろうか。
しかし。色の試行錯誤は、重ねるごとにどんどん迷路に入ってしまうことを、前回のキャッサバ作りで嫌というほど経験している。クオリティを追求するあまり、あんまりこねくり回しちゃうのも考え物だ。
とりあえず、いったん色の濃いオレンジをリセットすべく、ふたたびベースの黄色を塗り重ねることにした。すると、意外なことが起きた。
おや?
あらヤダ、なんかすごくイイ感じじゃない!?
上から重ね塗りをした結果、黄色とオレンジ色がいい感じに混ざって、適度に自然な濃淡を醸し出しているではないか。もういい、これでいい。ここで止めよう。
あとは細かいポイント。焼き芋の内側の皮に近い部分は、皮の表面の色が映るのかこげ茶色になっている。こちらも再現するため、皮の境目あたりを茶色を混ぜた黄色で塗った。芋の内側はこれで完了だ。
皮部分も、地の色より少し薄い茶色を重ね塗りして色の濃淡を作り、質感をアップ。
そして皮について忘れてはいけないのが、蜜である。
「甘すぎて蜜が皮からしたたっている」ことについての言及もまた、糖度の高い芋のPRでよく見る訴求ポイントである。私が食べた安納芋も、御多分に漏れず蜜がにじみ出ていた。
今回は巨大な芋ということで、景気よく蜜をダラダラとしたたらせていく。さらに、蜜の光沢を表現するため、蜜部分だけニスをひと塗り。
これにて、芋部分の全工程が完了した。
糖度計の仕上げは潔くテクノロジーを使う
続いて、糖度計も仕上げていく。
糖度計の数値などの細かい部分は絵の具で書くとうまく再現できないので、潔く印刷技術に頼ることにした。まずはパワーポイントで
・もっとも大事な「バナナの200倍近くの甘さを記録」というPOP風の吹き出し
・バナナの200倍の甘さにあたるデジタル数値
を作成し、コンビニの光沢紙印刷で印刷する。
これらを切り抜き、厚紙で補強して原型にはりつければ糖度計のできあがり。
ちなみに、糖度計の先端は、ちゃんとプリズム部分を再現してあるぞ。
改めて完成品を見てみよう
かくして出来上がった芋と糖度計を、例年通り頭に乗っける機構に取り付ける。
頭に乗っける機構といっても、100均で買った園芸用の皿に穴を開けて、顎紐(靴ひも)を通しただけの簡素な作りである。
ベースの準備が済んだら、糖度計と芋の位置を調整して固定する。今回は糖度計を斜めに刺す形を再現したかったので、木材にフックを取り付ける形で糖度計を支える仕組みも作ってみた。
糖度の高い芋、ここに完成だ。
冒頭で糖度の高い芋の写真を見た人の多くは「なんのこっちゃ」と思ったことだろう。しかしいかがだろう、実に手の込んだ工程を経て作られたことを知ってから見ると、この地味な仮装もなんとなく大層な作品に見えてこないだろうか。来ないか。
引き続き、誰に求められるでもなくこだわりを詰め込んだ、地味な仮装を作っていく所存である。
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