ふ凡社鈴木です。
バンジージャンプをすることになった。
GWのど真ん中、元号も変わって、なんだか景気の良い空気が流れる中、いきなり命の危険のあるアクティビティに身を投じようというのだ。
せっかくの初バンジー。普通にやるだけではもったいない気がするので、私はアサシン(暗殺者)飛びで臨むことにした。何を言ってるかよくわからないと思うので、レポートをお届けする。
鈴木のイメージする「初バンジーのテンプレート」
私はバンジーをやったことがない。ただテレビなどで何となく
「初めてバンジーをやる人像」
というのは知っている。
内股をカタカタさせながら猫背で高台に立ち、足元をチラッと覗き見て
「うわたっか!無理無理無理無理絶対無理!!!」
とわめき散らし、
「スリー!ツー!ワ・・・いや待って!待って!!待って!!!やっぱ無理やわ!!!」
と、悪あがきを幾度か繰り返し、見かねたインストラクターの後押しで半ば無理やり谷底へ突き落とされ、
「ひ゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
と叫びながら落ちていき、
「ウォォォォォォォォォォ」
と唸りながら二三度バウンドする間に落ち着きを取り戻し、最後はケタケタと笑いながらワイヤーで巻き上げられる。
地上に戻ったら
「いやぁ、死ぬかと思ったけど、飛んでみたらめっちゃ楽しかったですね」
とヘラヘラ笑いながら、カメラに向かってピースなどする。
さしずめこんな感じではないか。
俺の初バンジーは一味違う
初めてバンジーをする人の多くは、先述のテンプレートにのっとった模範的な初バンジーをするのだろう。
しかし、私は思った。
「どうせやるなら一味違うコンセプトでやりたい」
バンジーは、やる本人にとっては大ごとで、これまでにない大胆な決断であり、プレシャスな体験だ。一方で、バンジー自体はメジャーだし、私がやらなくったって「初めてバンジーやってきました!」と発信している人たちは星の数ほどいるはずだ。
つまり、ただ飛ぶだけでは、いまひとつインパクトに欠ける。
どんな初バンジーをプロデュースしたいか考えた時、思い至ったのが「アサシン飛び」である。
「アサシン飛び」のテンプレート
アクション映画なんかで、こんなシーンを見たことがないだろうか。
カリスマのアサシンが、ビルの上でなにやらいそいそと準備を整えている。傍らには、ひょんなことから彼と行動を共にすることになった、冴えない一般男性が。
「一体何をやろうとしてるんだ!ちゃんと説明しろ!」
とわめきたてる男を気にもとめず、アサシンはクラッシックを口ずさみながらいそいそと装備を装着し、ビルの淵に立つ。
「おいおい待て!待て!!待て!!!、アンタまさか・・・」
と息を呑む男に、アサシンはくるりと振り返って一言。
「あとは任せたよ」
とにっこり微笑んで、スローモーションで後ろ向きで落ちていく。
「おいおいマジかよ!!!!クソっ!!!とんだイカれ野郎だ!!!!」
これがアサシン飛びである。これをやる。
群馬より愛をこめて
令和元年五月の始め、木曜の朝。私は、スーツ姿で群馬の上毛高原に立った。
駅からバスで約30分、トコトコ揺られて、猿ヶ京バンジーに到着。
事前の情報で、62メートルの高さの橋の上から渓谷に向かって飛び降りるということだけ聞いていた。ただ、62メートルがいかほどのものかわからないし、ましてその高さから飛び降りたことなんてないので、どんな感じなのか全く想像がつかない。
現地について、下見で橋の上に立ってみた。
高い高い高い。高いわ。スカイツリーか君は。
少し下を覗いただけで、下半身がひゅんとする。しかし、景観は美麗そのもの。水は深いエメラルドグリーン、空は透き通る青、木々はいい感じの緑。空気もおいしい。素晴らしい。絶好の暗殺日和である。
早速受付を済ませる。バンジーの値段は1ジャンプ1万1000円。高い高い高い。高いわ。フォアグラか君は。
しかし、今の私は凄腕のアサシン。1つのミッションを達成するたびに多分3億円くらいもらっているので、ポケットティッシュを買う感覚で諭吉と英世を差し出す。
その後、要約すると「僕は何かあっても文句は言いましぇん!!!!」という旨の誓約書にサインし、スタッフの指示に従って装備を取り付けていく。この時からすでに私の心は暗殺者。頭の中ではムソルグスキーの「展覧会の絵」が流れている。
アサシン飛びをするにあたって、細かな設定もちゃんと考えてきた。
本日のターゲットは、さるイタリアンマフィアの幹部・トンマーゾ。愛人のステファニーとともにバカンスで群馬を訪れ、猿ヶ京で釣りを楽しんだ後、登利平の鶏飯を食べに行こうという計画を立てている。
しかし残念ながら、彼の口に鶏飯が入ることはない。
もろもろのセットを完了し、いよいよジャンプ台に立つ。
「1、2、3ですぐ飛んでもらいます。溜めてやると、飛べなくなっちゃうから」
とスタッフ。
なるほど、確かに1回1回個人の裁量に任せていては、回転率が下がってしまうのかもしれない。私の前にも体験者が何人かいて、スタッフは飛び降りる人たちの背中を少し押しだすようにアシストしていた。
ちなみに、スタッフは外国人が多く、全体的にテンションが高い。小粋なジョークを挟みながら、ノリノリで参加者を谷に突き落としていく。場を盛り上げるのも、皆の気を大きくしてバンバン飛ばせるために必要な演出なのだろう。
私の場合はサポートは不要。なぜなら私は死のキューピッド。スタッフのアシストなどなくとも、難なく飛べるはずだ。
死のキューピッド「後ろ向きに飛んでもいいですか?」
スタッフ「大丈夫ですけど、結構怖いんで、初めてなら前から飛ぶのをおススメします」
HAHAHA、私を誰だと思っている。豊後の死神と恐れられた男ぞ。
頭が高い頭が高い。頭が高いわ。悪代官か君は。
渓谷に背を向け足場に立ち、準備は整った。
さぁトンマーゾ、個人的な恨みはないが、お前は数多くの善良な市民を悲しみの淵に突き落としてきた罪深き男。せめて清らかな翠玉の水に抱かれて散れ。
呼吸を整え、風の音に耳を澄ます。イメトレは完璧。オプションの写真撮影も申し込んだから、きっと初バンジーとは思えない余裕しゃくしゃくの絵が撮れることだろう。勝った。勝ったわこれ。
スタッフ「3、2、1 ハイっ!」
その言葉とともに、体がゆっくり傾いていく。その時、事件は起こった。
スタッフ「あっ、ちょっと待って(ボソッ)」
死のキューピッド「ファッ!?!?!?」
まさか、まだセッティング完了してなかったのか!?
えっ、もう両手離れちゃってるじゃん!どうすんのこれ!!!
あっ、死…
その間わずか1秒、リアルに景色がスローモーションで見えた。だから、スタッフの口元もはっきり見えた。
「コイツ!!!!ニヤニヤ笑ってやがる!!!!」
騙しやがったなちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!
いともたやすく行われるえげつないジョーク
そこから先は、覚えていない。気づけば私は、ケタケタ笑いながらキリキリと巻き取られていた。なんか景色がきれいだったと思う。
これが、私のヴァージンバンジーの顛末である。最初の一瞬で感じたのは、確かに「死」だった。心臓に悪い(物理)ジョーク。フォーリナーのノリはトゥークレイジーである。
なにはともあれ、初めてにして稀有な体験ができて、とても満足した。
「髪をポマードでオールバックにして、黒い蝶ネクタイを締めたほうがよりアサシンぽかったかな」と、次のアサシン飛びに向けた改善点も見つかった。
命拾いしたな、トンマーゾ。
(ふ凡社暗殺部)
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