アルティメットキャッサバを作る

こんばんは、

ふ凡社代表取締役 IoT(Ika okura Tomato)

の鈴木です。

 

 

今回は

紙粘土を使って、本物に限りなく近いキャッサバを作る企画

である。

 

この一文だけでは意味不明だと思うので、順を追って説明する。

 

「地味ハロウィン」でキャッサバになった話

 

今年の「地味ハロウィン」で、私はキャッサバのコスプレをした。

 

「地味ハロウィン」とは、Webメディア「デイリーポータルZ」さん主催の、地味なコスプレ限定ハロウィンイベントだ。「エスカレーターの手すりを磨く人」や、「顔交換アプリが別のところに反応しちゃった人」といった、地味なコスプレをした人たちが集結する。

画像はプレスリリースより

 

私は3年前に初参加して以来、毎年、人ではなく無生物をモチーフにしたコスプレをして参加している。

 

キャッサバは、南米やアフリカを中心に栽培されている芋の一種で、今年大流行したタピオカの原料である。

 

地味ハロウィンのネタを決めるにあたって、

 

今年を象徴する地味な無生物はなにか

 

と思案した結果、イケイケのタピオカに対し、びっくりするほどスポットライトが当たらない原料に目をつけたのだ。

 

イベント当日、私は以下のような姿になった。

 

 

歩くキャッサバ。人体は添えるだけ。

 

紙粘土で作ったキャッサバを頭に乗せているわけだが、我ながら、なかなかの出来栄えだと思う。地味ハロの会場でも、多くの方から「クオリティ高いですね」と言っていただき、得意な気持ちになった。

しかし。イベント終了後、どこか心にひっかかるものがあった。

 

私はキャッサバの何を理解できたのだろうか

 

作るにあたって参考にしたのは、Googleの画像検索結果だけ。あまり多くの資料が出てくるわけでもないから、質感や細部はほぼ想像で作ったと言ってもよい。キャッサバ自体についても、タピオカの原料であることぐらいしか知らない。

 

こんなふわりとした材料とフィーリングだけで作ったものを、果たしてキャッサバと呼べるのだろうか。大昔の日本人が想像で描いた象の絵とさして変わらないではないか。これではいけない。

 

そして私は決意した。

 

「本物のキャッサバを手に入れて、アルティメットキャッサバを作ろう」

 

最初の関門「現物調達」

 

そうと決まれば、まずは現物の手配である。ネットで調べたところ、キャッサバは日本だと沖縄とかで良く作られているらしい。

 

「キャッサバ粉とか加工品はともかく、芋自体を売ってるところなんて見つかるだろうか。

見つけたとしても、価格がめっちゃ高かったらどうしよう」

 

など不安になりながら「キャッサバ、芋、通販」で検索窓をたたいた。すると…

 

 

まさかのメルカリで売ってる人がいた。嘘だろ。

愛以外なんでも売ってる場所、メルカリ。

 

 

10kgから1㎏までと、細かい単位で量り売りしていたので、さっそく1kg分を購入。お値段なんと1100円。超安いではないか。「現物を手に入れる」という、最初にして最大の関門をあっさり突破してしまった。メルカリすげぇ。

 

 

現物調達できたわけだが・・・

 

決済を完了すると、早速出品者から連絡が届いた。

 

「ご購入ありがとうございます。

午後掘ってすぐに発送いたします

 

えっ、ちょっと待って?

リアルタイムで実ってるの!?

 

出品者は、群馬県で自家栽培を行っているらしい。聞けばちょうど今が収穫シーズンで、毎日のように掘ってはそのまま出荷しているとのこと。

 

ここにきて、考えることはひとつである。

 

見たい。リアルキャッサバがなってるとこ、超見たい。

 

ダメもとで取材を申し込んでみたところ、なんとOKが出た。現物を手に入れただけでも万々歳なのに、まさか収穫現場を目撃することになるとは。

思わぬ展開に、企画は新たなステージへと突入する。

 

 

なぜ群馬でキャッサバなのか

 

一週間後、私は群馬の成島に飛んだ。駅から出品者のご自宅までは、徒歩小一時間ほど。せっかくなのでのんびり田園風景を楽しみながら、道中和菓子屋に寄ってお菓子など買いつつテケテケ歩いた。

 

現地につき、迎えてくれたのはSご夫妻。ご主人はコンクリート関係の本業を持つ傍ら、親族から受け継いだ農地を使ってサツマイモやキャッサバ、サトイモなどを育てているのだという。

ぷくぷくに太ったサツマイモが素敵

 

 

鈴木「サツマイモとサトイモは分かりますが、

なんつったってキャッサバなんてマイナーな代物を?」

 

ご主人「知人がキャッサバを作り始めて、その苗をもらって今年から育て始めたんです」

 

聞けば、S夫妻の自宅近く、邑楽(おうら)郡・太田町は『日本のブラジル』と言われるくらいブラジル人が多い場所だという。

 

ご主人の知人の奥様もブラジル人。キャッサバはブラジルで良く食べられているそうで、奥様が『群馬でもキャッサバを作りたい』ということで栽培が始まったのだそう。

 

結果は大成功。今ではキャッサバ栽培の組合まで立ち上がり、この一帯は、知る人ぞ知るキャッサバの特産地になりつつあるそうだ。ブラジル人の行動力すごい。

 

 

ついに、リアルキャッサバと対面

 

早速、キャッサバの畑を見せてもらった。

 

ご主人「ここ一面、全部キャッサバです」

 

これがキャッサバ畑、略してキャッサ畑。

 

人の背丈ほどもある苗木が連なる光景が広がっている。てっきりサツマイモみたいに、背の低い葉っぱから生えてるもんだと思っていたから、予想外の姿に驚く。

 

キャッサバは非常に強い作物のようで、苗を植えた後はほとんど放置していたのに、勝手に育って大豊作だったという。たくましい。たくましいぞキャッサバ。

 

いよいよ、収穫タイム。1本の苗木から取れるキャッサバはなんと7~8kg。収穫には小型のショベルカーを使う必要がある。

 

ご主人「じゃあ、掘り上げますね!」

 

苗の根元に引っ掛けたショベルカーのアームが動き始める。ミシミシと音を立て、苗がゆっくり地面を離れていく。緊張の一瞬。ついに、リアルキャッサバに会えるのだ。

 

 

 

衝撃の収穫風景

 

ボコッ!という音とともに地面から姿を現したのは、苗を中心に放射線状に伸びる巨大な物体。これがキャッサバだと!?

 

近くに寄ってみると、芋というより、根に近い感じ。なんという迫力。若干怖い。水木しげるの妖怪図鑑にこんなのいた気がする。

 

たくましすぎる御姿

 

ご主人「堅いんでね、のこぎり使います」

 

ご主人が、ゴリゴリ芋を切り分けていく。腕の力の入りようから、キャッサバが芋らしからぬ硬さであることがわかる。

 

芋にはかなり水分が含まれているようで、切ったそばから、切り口に白い液がぽつぽつ浮かんだ。こやつがでんぷん質で、後にタピオカとなるそうだ。

真っ白な液を、ああしてこうするとタピオカになる

 

 

 

1株から、ず太いキャッサバが10本ほど取れた。

 

 

大漁大漁

 

せっかくなので、持ち上げてみる。

 

 

鈴木「わぁっ!仙骨あたりに不安を覚える!!!!(キャッキャ)

 

1本が余裕で1kgくらいあるから、そりゃ重いはずである。早々にリリース。

 

その後、形の良い大きなキャッサバを3本、その場で購入した。

 

3本でしめて2.5kgもある

 

袋に入れるとずっしり重い。ヒイヒイ運びながら帰路につき、ついに本物のキャッサバを手に入れたのだった。

 

新巻鮭を持ってる感ある

 

いよいよアルティメットキャッサバ作り

 

さて、いよいよ本題だ。紙粘土でアルティメットキャッサバを作っていく。

 

まずは風呂場で土を落とし、本物のキャッサバをしかと観察するところから始める。

 

上からブロッサム、バブルス、バターカップと名付けた

 

 

形は、太いごぼうにみたい。

表面は、細かな網目状の筋でおおわれている。

特徴的な白い横筋は、思ったよりも近い間隔でたくさん入っている。

胴に、ところどころくびれている部分がある。

 

アップで見て初めてディティールが分かる

 

 

キャッサバにはいくつか品種があるようで、私が最初に作った胴が太いキャッサバとはどうやら別品種らしい。しかしながら、品種の違いを差し引いても、プロトタイプが相当大味なクオリティであったことが分かる。

突然のご本人登場に戸惑うプロトタイプ

 

己の力不足を省み、改めてキャッサバに向き合いながら作っていこうではないか。

 

 

まずは原型を作る

 

まずは原型づくり。紙粘土をこねて伸ばして大まかな形を作る。

象牙っぽい形

続いてボディーのところどころに、くびれを作る。これだけで、だいぶキャッサバ感が出る。

くびれを入れるとキャッサバ感が一気にアップ

 

さらに、白い横筋を入れる。

 

これで大枠は完成だ。

 

さて、ここからが大変。爪楊枝を使って、細かな網目模様を入れていく。紙粘土はどんどん乾いていくので、都度都度水で表皮を潤しながら、チクチクチクチクと地道な作業を進める。

 

乾燥肌との闘い

 

格闘すること約2時間、ようやく全体に模様を入れることができた

 

 

続いて、原型を乾燥させる。プロトタイプを作った時は、机に置いて乾かしたから、底が平たい仕上がりになってしまった。

今回はアルティメット版ということで、細かな点も妥協しない

 

キャッサバ職人は、乾燥までこだわる

 

 

原型の形を崩さないために、浴室にハンモック型の乾燥装置を作った。これで、底がつぶれることなく、そのままの形で乾燥できるはずだ。

さらに、先端を箸で支える形で固定し、先っちょが地面からちょっと浮いている様までしかと再現する。

 

こうして、ようやく原型が完成した。

 

 

アルティメット原型

 

いいんでねぇか。かーなーりいいんでねぇかこれ。

 

彩色迷路の果て

つづいて、色をつけていく。プロトタイプは、画像をもとに「こおんな感じ?」で色を塗ったが、アルティメット版はここでも妥協しない

まず、フォトショップのスポイト機能を使い、写真からキャッサバの表皮の色を特定する

 

赤132・緑104・青66か。オッケ。

 

RGBの値が出るから、だいたいこの割合で赤・緑・青の絵の具を混ぜれば、本物に近い色を再現できるはずだ

 

 

いざ、混色。ノリノリで混ぜた結果がこちら。

 

 

 

なんだこれ。地獄の色じゃねぇか。

 

鈴木には色の原則がよくわからぬ。よくわからんけど、RGBってそんな単純じゃないことが分かった。私が悪かった。

 

おとなしく黄土色の絵の具を使い、そこに色を足していく形で、採取した色に近い絵の具を作っていく。

最初からこうすればよかったのだ

 

だいたいこれくらいかな?という色ができたところで、全体を塗ってみる。

 

 

彩色第1弾

 

うーん。単体だとそれらしい色にも見えるが、実物と比べるとだいぶ明るい色合いになっていることが分かる。改良だ。

 

 

一旦乾燥させ、さらに色を足していく。2層目は、前回の色に茶色・青を混ぜることで、より黒味がかった色を作って塗ってみた。

 

彩色第2弾

 

おおっ!だいぶ近づいたんじゃない!?

 

最初に塗った明るめの色が下地になり、網目部分が浮かび上がっている。単色ののっぺりした感じから、立体感が生まれた。いい感じだ。

 

ここからさらに細かな色合いを重ねて、よりリアルな色を追求していく作業に入る

 

・・・が。ここからが迷路だった。

 

基本的にベースの黄土色に色を混ぜて濃淡のバリエーションを作っていくのだが、塗れば塗るほど「なんか違うな、の精」と、「もうちょっとこう、の精」が頭の周りを交互に飛び、なかなか思うような色彩にたどり着けない。

 

近く塗っては乾かし、塗っては乾かし、作った絵の具のグラデーションはこの通り。

 

皿の数は、迷いの数

 

 

 

黄土色たちとの泥仕合を約2時間繰り返した末に、たどり着いたのがこの1本。

 

完成した彩色アルティメット版

 

ふはは、できた。できたぞ!どうだいこの出来。

 

早速実物と並べてみようではないか。

 

 

 

 

 

ぱっと見、どっちか分からないレベル。

 

・・・近くないか。ねぇ超近くないか。

 

本物と見比べても、大差ないクオリティになったのではないか。重ね塗りで迷走したおかげで、図らずも部位によって微妙に色の濃さが異なる感じまで再現できた。

細かすぎて伝わらないグラデーション

 

 

こうして、ようやく納得のいくクオリティの本体が完成した。やったね!

 

テンション上がって、コロッセオの戦士っぽい写真を撮る鈴木

 

さらにテンション上がり、シャイニングっぽい写真を撮る鈴木

 

 

しかし、ここで終わりではない。

 

私のキャッサバは、頭にのせることで初めて完成するのだ。

 

ついに完成、アルティメットキャッサバ

 

早速、プロトタイプと同じ要領で帽子型のジョイント機構を作った。

 

園芸用の皿に靴紐を通し、3本の釘で本体を支えるシンプルな構造

 

 

出来上がった帽子にキャッサバを設置し、いざ、装着。

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃーん!!はい完成、アルティメットキャッサバ。

 

ゆるやかなうねりを描きながら、すらりと伸びるこのフォルム。馴染む、体に馴染むぞ。さすがはアルティメット。

キャッサバはこうでなくては困る。よっ、芋大臣!ブラジル大使館から親善大使のオファー来るよこれ。大満足!

 

 

ひとしきり自画自賛したあと、最後はキャッサバをフライドポテトにしておいしくいただいた。

 

 

ジャガイモとサトイモのちょうど中間のような味で、独特な風味と甘みがある。塩をちょっと振っただけでめちゃくちゃおいしい。

 

キャッサバを知り、キャッサバに向き合い、キャッサバと一体となる。生産性と合理性を一切無視した、贅沢な試み。

 

ああ楽しかった。今年、もうやり切った感があるな。ありがとうキャッサバ。

 

(ふ凡社編集部)

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