尿意の限界を知る

神「鈴木よ、お前は今までの人生の中で、自分のことをよく知ることができたか

鈴木「はい、もちろんです。自分のことは自分が一番よくわかっています。わからないことなどございません。」

神「ならば一つ聞こう

鈴木「どうぞ。何なりとお答えしましょう」

神「お前はトイレに行こうかな、と思ってから尿意が限界を迎えるまで、どれだけの時間耐えられる

鈴木「えっ」

どうも、ふ凡社鈴木です。

尿意を耐えてみようかなと思った。ただそれだけのこと

先日、仕事中に「トイレに行こうかな」、と思った時のことである。

いつもはライトに尿意を感じた段階でトイレに立つが、この日の私は、ふと立ち止まって考えてしまった。

私の体は、いったいどれだけの時間、尿意に耐えうるのだろうか

頭に浮かんだのが、冒頭のやり取りである。死後の世界があるとして、神様がいるとして、生前の様子を神様に報告する場が設けられるとして。今の私は、もし神様から「君どれだけおしっこがまんできんの?」と聞かれたら、正確に回答できないのだ。これはいけない。

思えば尿意とは不思議な奴である。同じ人間、貯水槽の容量は変わらないはずなのに、水分の摂取量やタイミング、周囲の環境や精神状態など、様々な要素が複雑に絡まって、遅く来たり早く来たり七変化の様相を見せる。私に限らず、実はほとんどの人類は、自分の尿意が「どこから来てどこへ行くのか」を知らないのではないか。これではいけない。

ならば、探さなきゃね、僕の尿意のふるさと。管を伝って落ちる雫がどこから来るのかを。

私は浮かせかけた腰にストップをかけ、今一度深く椅子に座りなおした。

こうして、27歳成人男性による、己の下半身と向き合う本気の耐久レースが幕を開けた。

1分 「トイレに行こうかな」

始まりはいつもライトなきっかけから。いつもならここで軽率に席を立つところ、今日の私は一味違う。どっしりと構えて動かざること山の如しである。

5分 「気になる」

戸惑いを見せたは私の下半身である。下腹部から、「えっ、行かないんすか?」というメッセージが、微弱な電波に乗って脳に届いているのが分かる。貯水タンクはまだ全くの無傷だが、「なんかいつもと違うことやってんな」と一度意識してしまうと、そわそわスイッチが入るのだ。

しかし、このそわそわも長くは持たない。10分もすれば尿意は意識から外れ、いつもと変わらぬ生活が広がるばかりであった。

55分 「トイレに行きたいな」

小一時間立ったころ、「トイレに行きたいな」と思った。

「行こうかな」と「行きたいな」。たかだか2文字の違いだが、この間には天と地ほどの差がある。尿意が、感知から認知に変わる瞬間だからだ

いつもの私なら、この段階になったら迷わずトイレに行く。このステージが、いわゆる「鈴木の尿意のスタンダード」と言えよう。

ただ、尿意を認知してからも、タンクの容量にはまだまだ余裕があるので、少し意識すれば軽く耐えられるレベルだった。

1時間54分 「常に『行けたら行くのに』と思う」

スタンダードからさらに一時間、ここにきて、状況は一変。常に尿意が頭の片隅から離れないようになる。バラエティ番組のワイプをイメージしていただければわかりやすいだろう。あんな感じで、下腹部にずっと違和感が残っているのだ。

下腹部の指令室からは「ねぇなんで?なんで行かないんすか?」とひっきりなしにLINEが飛んできているのが分かる。悲鳴を上げ始めた現場に少し心が痛むが、無慈悲に既読スルーする

これまで、一時間程度の長いスパンでステージが変化してきたが、以降戦局はめまぐるしく変化していく。

2時間9分 「怪我をした時に似ている」

筋をひねったり、指に切り傷があったり、体のどこかに外傷による痛みがあると、何をするにも患部が気にかかってのびのび生活できない。

あの感覚に非常に似ている。

少し腕を動かすだけでも、常に下半身を気にしてしまう自分がいる。恋愛ドラマで言うとだいたい6話目くらい、頑なだったヒロインが、ついに犬猿の仲だと思っていた幼馴染への恋心を認めてしまう盛り上がりがこのあたりだろう。

2時間30分 「ともに生きよう」

ここにきて、ついに下半身が折れた。なんと尿意を感じなくなったのである

「わーったよ、行かねぇんだな?ならとことん付き合ってやるよ!!!」

と腹をくくったのだろうか。一時の安定期が訪れる。

2時間39分 「下腹部に痛み、体の内側に熱」

前ステージの安定期は、嵐の前の凪に過ぎなかった。下半身の耐久値はすでにオーバーヒートを迎えつつあったようだ。下腹部に筋肉痛のようなピリピリとした痛みが走り、体は内側から熱を放っているのを感じ始める。

2時間46分 「座るときめっちゃ背筋がピンとなる」

このころになると、もはや普段の体制では正気を保てなくなる。気を緩めると漏洩しそうになるので、常に下半身に一定の力を入れ続けるため、背筋がピンとなり、体の重心がやや前傾になる。

その姿はさながら、遠方にライオンを発見したキリン。緊張と冷や汗で体がプルプル震えているのだ。

3時17分 「時は減速する」

時の流れがスローになる。体はキーボードを打ちながら、脳裏には常にトイレのドアを開けるビデオクリップが流れ続けている

誰かがトイレに向かう音を聞いただけで、お腹をキュッと握られたような痛みが走る。脳内BGMは中島みゆきの「ファイト!」である。

3時間30分 「救世主・差し込み相談」

それまでカタカタとデスクに向かって必死で耐えていたが、そろそろ限界かしら!と思っていた時、同僚から差し込みの相談が入る。下半身はすでにおジャ魔女カーニバルになっているはずなのに、外部からの刺激を受けると一時的に尿意を忘れるから、人体とは実に不思議なもんである。

ただ、席を立つと、背中にものすごい汗をかいているのが分かった。この時のひやりとした感覚で、再びマグマが沸騰する。

3時間40分 「向かい水を飲む」

何をやっても頭から「ダムの放水のイメージ」が消えないステージに突入。限界は近い。

ところが、ここにきて心はナチュラルハイを迎え、よせばいいのに「向かい水じゃこら」とがぶがぶ水を飲み始める自分がいた。

「限界なんだろ?じゃあもうどんだけ水を入れたって同じことだよなぁぁ!!!!ゲハハハハハ!!!!!!」

狂薬の力で命を削り超人的な力を得て、暴虐の限りを尽くしたマッドサイエンティストが、盾とかで戦うヒーローに追い詰められ、仮に逃げ切れたとしても副作用で死が確定しているという状況に陥ったらきっとこんな気持ちになるのだろう。

3時間54分 「さよならの向こう側」

そうだ、トイレに行こう」と思った。

座るとやばい、立てばやばい、歩きだしたらもっとやばい。

3時間57分

そして世界は光につつまれた。

体の奥底から絶えず湧き上がる全身の弛緩の心地よさじは、「そうだ、私はおしっこを限界まで我慢してリリースするために生まれてきたんだ」と思い出させてくれた。

結論

鈴木は、尿意を感じてから限界を迎えるまで、3時間57分耐えられる。

こうして、世界にまた一つ新たなトリビアが生まれた。一つ己を知り、一つ強くなり、一つ優しくなった。よい子は真似してはいけない。

(ふ凡社保健部)

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