山場は最序盤にあり
群馬県立自然史博物館に展示されていた、笏みたいな形のサナギタケをモデルに作ることにする。
制作の山場は最序盤にやってきた。サナギタケ本体は紙粘土で作るとして、「いかに頭に乗せるか」である。
例年は、プラスチックの鉢受けに作ったものを取り付け、鉢受けを帽子みたいに被る形をとってきた(画像参照)。
ただこれは、頭と本体が分離している仮装だからこそ違和感のない自然な仕上がりになっていたのであって、冬虫夏草の場合はそうもいかない。
”ちゃんと本体から生えている感”
を出す必要があるのだ。
まず、ざっくりとサナギタケのプロトタイプを作ってみる。紙粘土一袋分でちょうどよいサイズになりそうだ。サナギタケのシルエット自体はシンプルなので、ひな形はあっという間に完成した。
頭に取り付ける方法として、カチューシャに強力な磁石を接着して固定する方法を試してみた。
乾燥させたひな形に磁石を取り付け、いざ装着。
うーん、だめだ、全然安定しない。
磁石一点だけだと本体がぐらぐらして、まったく心もとない。次いこう次。
続いて、カチューシャに針金で骨組みを仕込み、直接固定してしまえばよいのではないかと考えた。
骨組みを取り付けた段階で「多分これで行ける」と判断し、もう本番用のサナギタケの原型を作ってしまった。
「さぁ、ちゃんと固定できてくれよ…!!!」
祈るような気持ちで装着。
グラグラシテナーイ!!!ヤッター!!!
読みは当たっていた。前から見るとちゃんと頭から生えているように見えるし、ばっちりだ。あとは、カチューシャに顎ひもをつければ、さらに安定感を確保できるはずである。
色塗りは深夜に書いたラブレターのよう
難所をクリアしたところでほっと一安心。あとはサナギタケの細部を仕上げていくだけだ。
オレンジのアクリル絵の具をベースに、冬虫夏草ハンドブックと見比べながら下地の色を作る。
毎年、色を塗った直後は「うん、ばっちり!」と思っても、一晩乾燥させて見直すと「あれ、全然違うじゃん」となる現象が起きる。深夜に書いたラブレターみたいなものである。
サナギタケはぱっと見、先端の鮮やかなオレンジ色が特徴的。しかし、図鑑の写真をよく観察すると、先端の濃いオレンジ色は、子嚢果(しのうか)という胞子が入ったオレンジ色の袋が集まった結果そう見えているみたいだ。それ以外の部分の色は、どちらかというと白色にややオレンジを混ぜたくらいの淡さである。
最初に塗った色だとオレンジ色が濃すぎるので、一段階淡い色に調整。
うん、図鑑と比べてみてもかなり近い色になった。
菌類を拡大すると何が起きるかを考えてなかった
続いて、子嚢果部分に取り掛かる。アクリル絵の具で色を変えて塗ることもできるが、できれば子嚢果ひとつひとつの立体感まで再現したい。今回は、オレンジ色のビーズを用いることにした。
ビーズをピンセットでつまみ、一つずつ木工ボンドで原型に貼り付けていく。
この作業がまぁ大変だった。ちまちまやって2時間くらいかかった。完了したのがこちら。
うーん、ビーズの真ん中がくぼんでいることもあって、見た目の気味悪さが半端でない。見ているだけでぞわぞわしてくる。本来小さいサイズの菌類を拡大することによって発生する、生理的嫌悪感の度合いを見誤っていた。これではいけない。
緩和策として、ビーズの穴をオレンジのアクリル絵の具で埋め、さらにビーズとビーズの間の空間にもやや濃いめのオレンジ色を塗ってみることにした。
結果的に、はからずも子嚢果部分のクオリティがより実物に近づき、また「遠目にみれば」最初ほど気味悪さを感じない程度の見た目に落ちついた…と思うことにしよう。
続いて、土から掘りたての感じを出すために、下部分を茶色に塗る。
最後に、最下部に白色の羊毛フェルトをとりつけ、サナギとキノコの境目に見られる繊維状の菌糸(?)っぽさも再現する。
あっといーうまーにー!はい、サナギタケ完成!!!!
実物を見るため東奔西走し、資料と突き合わせながら可能な限り細部にこだわって作ったこともあり、愛着もひとしお。頭に装着すれば馴染む、馴染むぞ!
いかがだろう。制作の過程を知ってから改めて仮装の写真を見ると、なかなかどうして感慨深くないか。
「世の中には冬虫夏草の仮装を作るためにやたらこだわる人間もいるもんだ」ということが少しでも伝わったなら幸いである。
コメントを残す