地味ハロウィン2022「冬虫夏草」はいかにして作られたか

メリークリスマス!ふ凡社です。

今年も、デイリーポータルZさん主催の地味ハロウィンに参加してきた。

2017年の初参加から6回目を迎えた今回、私は一つのパラダイムシフトを起こすことに決めた。

先に結論を申し上げると、今年の仮装は

「冬虫夏草」

である。

なんだこれは

ここに至るまでにけっこういろんなことがあったので、制作記をお伝えする。

初の全身仮装

冬虫夏草とは、簡単に言うと虫に寄生するキノコ※のこと。キノコは成長の過程で最終的に宿主を殺めて成熟する。ものによっては漢方薬としても珍重される。

※実際にはキノコだけでなくカビなども含めた「菌類」というカテゴリ。虫以外に寄生するものもある。

私は地味ハロウィンに、毎年「地味なモノ」を作っては頭に乗せて参加している。

左から「お客が一口も飲まなかった麦茶(2018)」、「キャッサバ(2019)」、「ピンを抜くゲームのピン(2020)」

「頭の上に何かを乗せているだけでは仮装と言えないのではないか」

「本体は飾り」

等々つっこまれながらも、「これは仮装である」と言い張ってきた、が。

実は、会場で他の参加者方々のステキな仮装を見るたび「あぁ、わたしも全身の仮装をやってみたい」と思ってはいたのだ。それでも「頭の上に何かを乗せる仮装以外をしたら死ぬ」という念を込めた鎖を心臓に巻いてしまったが故に、実現できずにいた。

それがどうだろう、冬虫夏草であれば「頭の上に何かを乗せる」という縛りを踏襲しつつも、寄生された本体(私)も含めた全身の仮装ができるではないか。抜け穴、見つけたり!

かくして、ウッキウキで準備を始めたわけだ。

日本は冬虫夏草大国だった

まずは例年通り資料集めから。『冬虫夏草ハンドブック』(文一総合出版)という図鑑を買い、どの冬虫夏草になるかを決める。

図鑑によると、日本は数百種以上を産出する冬虫夏草大国らしい。

冬虫夏草と言えば、漢方薬でよく見る「芋虫に細長いキノコがついているやつ」のイメージしか持ってなかった(イラスト参照)が、図鑑を見ればその姿はキノコっぽいものから、ほっそい糸みたいなもの、虫の全身から小さな棘のように発生するものなど実に多様だ。

フリー素材サイトのイラストも、この形だった

とりどりの冬虫夏草の中から、頭の上に乗せることを見据えて、ある程度強度が確保でき、かつわかりやすい見た目のものを探す。

この基準で選んだのは「サナギタケ」。その名の通り、蝶や蛾の蛹(さなぎ)に寄生する冬虫夏草で、鮮やかなオレンジ色をしていてキレイ。冬虫夏草の中でも、日本中で見られるメジャーな存在のようだ。君に決めた。

ハンドブックのセンターを飾るのがサナギタケ

サナギタケを探しに秩父へ

図鑑だけを参考に作ることもできそうだが、どうせならサナギタケの実物を見てみたい。

『冬虫夏草ハンドブック』には「サナギタケは基本的に夏の時期に発生するが、埼玉では9月くらいにも見られる」との情報があった。また、埼玉県立自然の博物館のHPに発見報告の情報を見たので、同博物館に詳細を問い合わせてみたところ

ブナ林以外でも発生するようですが、狙って観察するのであれば、6~7月頃にブナ林を歩くようにすると、いずれ出会えるのではないかと思います。

埼玉県内で比較的アクセスしやすいブナ林は、三峰神社~霧藻ヶ峰あたり

との回答をいただいた。やはり発生しやすい時期は夏のようだが、図鑑にあった「秋頃も見られる」という情報に望みをかけ、現地に行ってみることに。

都内から電車とバスに揺られること約3時間、三峰神社の麓に到着。

神社の周辺から霧藻ヶ峰にかけて登山道になっていて、目当てのブナ林が広がる。

神社の参拝客たちによる賑わいに背を向け、さっそく入山。

その日は小雨が降っていて、ブナ林は濃い霧に包まれていた。登山道からはみ出さないよう注意しつつ、周辺の地表にオレンジ色を探す。

斜面を凝視しながら進む

ところどころ謎のキノコが生えているのは確認できるものの、ゆけどもゆけどサナギタケらしき姿は見えない。

謎キノコ1

謎キノコ2

たまにサナギタケではないものの、冬虫夏草っぽいやつも見つけたりする。

冬虫夏草っぽいにょろにょろ

あれ、なんかこんな冬虫夏草なかったっけ?とハンドブックを確認する。なかった。

しかしまぁそれにしても…

霧がスゲェや!!!!!

あたりはしんと静まり返り、景色は完全に異界。

たまに登山客とすれ違って挨拶を交わしたりしていなければ、あっという間に山に人間性を吸い取られてしまいそうで怖い。

入山して1時間くらいでさらに霧が濃くなったので「あ、これ以上は無理だな」と判断。なんの成果も得られないまま、すごすごと退散する運びとなった。

完全にホラーゲームの絵

サナギタケ発見、ならず。

それでも現物を見たい

それでもサナギタケを諦めきれなかった私は、冬虫夏草を展示してる施設がないか探してみることにした。すると、群馬県立自然史博物館のホームページの収蔵資料情報にサナギタケを発見。

念のため同博物館にも確認を取ったところ、サナギタケは常設展示されてるとのこと。ビンゴ!

やってきたぜ群馬県立自然史博物館。

しばらくティラノサウルスロボや巨大な古生物の骨格など、ド派手な展示が並ぶ館内を楽しみながら歩みを進めるが、冬虫夏草らしき展示物が見当たらない。

展示順路も終盤に差し掛かり、「本当にあるのかいな」と不安になってきたところ…

あった!ありました!!冬虫夏草コーナー!!!

刮目せよ、これがサナギタケだ!!!

図鑑で見たのとまったく同じビジュアルに感激すると同時に、思ったことがある。

サナギタケ、ちっちゃ!!!!

こりゃ見つからねぇわけだ

サナギ部分を入れても、指の第二関節くらいの大きさしかない。図鑑では接写されていたこともあり、てっきりマイタケくらいの大きさかと思っていたが、全然違った。こんなに小さいんじゃ、仮に三峯神社のブナ林に生えていたとしても絶対見つけられなかったと思う。

展示ケースにへばりつくようにじっくりと観察して、細部をインプットする。あんまり深刻な顔をしてじっと眺めていたものだから、はたからみたら「親族か誰か冬虫夏草に変えられたんか?」と思われたかもしれない。

とにもかくにも無事実物を見ることができ、大満足。家に帰ってさっそく制作に入ろうではないか。

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