引っ越しで「高額な原状回復費用」を請求されたけど、父が弁護士だったから何とかなった

【詳細を聞きつつ交渉するも…】

さて「本来払わなくていいはずの費用についても請求されてないか」と思ったとしても、こちらは素人なので、各ポイントの回復にかかる金額が適正かどうかが分からない。

ここで、弁護士パパの登場である。

先方からの請求内容と、これまでのやり取りを確認してもらった上で、「疑問点が多々あるけど、どのような形で交渉すればいいのか」とアドバイスを求めたところ

「現時点で、先方から来た請求内容だけだと『7年以上住んだことによる通常損耗を越える損失によるもの』ということを裏付ける客観的な証拠がないから、施工業者とのやり取りや具体的な施工内容の詳細を提示するよう求めると良い」

とのことだった。ここで、ド素人としては

「そもそも私が入居中に部屋をちゃんと適切に使っていたかどうかとか、『トラブルが発生してるけど、これは通常損耗の結果起きたものなんです』という明確な証拠が残ってるわけじゃないから、逆に私の主張を客観的に証明せよと言われても難しい。これ、借主のほうが不利なんじゃない?

という疑問が浮かぶ。しかし、法律家の視点としては

考え方としてはむしろ逆で、請求する貸主側が『通常損耗を越えている』と判断しうる客観的な証拠を出さないといけない。

もし証拠を出せないなら、請求は成立しない

という見解だそうだ。なるほど、法律上は不当な請求から立場の弱い消費者を守る仕組みになっているみたいだ。

ということで、管理会社宛てに

「請求内容が納得いかない点が多々あるので、各補修についてこちら負担と判断した客観的な根拠と妥当性を教えて欲しい」

旨を返信した。

後日、先方から各請求の根拠を説明するメールが返ってきた。主なポイントは以下の通り。

・壁紙クロスはガイドラインにのっとって請求した。本当はめっちゃ汚れてたしもっと貼替費用かかったけど、今回全体の請求額が大きくなっちゃったから、一部まけといたよ

・ロフトに浮かんだ謎のシミは通常使用以上の損耗だけど、「心当たりなし」とのことだから退去時に話した50%負担で請求したよ

・クローゼットの内部剥離は「湿気による剥離」だよ。窓枠にもカビ汚れ発生してることだし、部屋の中で湿気が発生してたのは明らかだから、多く負担してケロ

うーん、壁紙クロス張替え費用は「ガイドラインに則って請求しました」という矛盾。

もちろん、経年劣化でそれ相応に汚れてはいるものの、当方タバコ等クロスが特別悪くなる生活習慣はなく、入居期間中にクロスに向かってトマトスープの缶詰をぶちまけるなどもしていない。

にも関わらず、なんか「ホーンテッドマンションみたいな汚れ方で明け渡した」みたいなテンションで書かれていて、かつ「その上で譲歩してあげました感」を出してきている。さらに不信感が募る。

ロフトに浮かんだ謎の文字は、心あたりが無いから請求せんといてほしい。あと退去時の立会い確認中のやり取りをスマホで録音してたのだが、録音データを聞きなおしても「50%負担」の話は一つも出てないぞ…。

クローゼットの内部剥離と、クローゼットから離れた窓枠のカビ汚れとの間に何の因果関係が…?(ちなみにクローゼットもまた、入居期間中には除湿剤を置いたり、定期的に扉を開ける等して、ごく一般的な管理をしてきたつもりである)

そのほかについての説明内容はおおむね納得できたのだが、かような感じでいくつかツッコミどころが残っている。

・ガイドラインには「クロスの残存価値は6年以上で1円になる」って書いてるんだから、ガイドラインに則ると費用請求してくるのはおかしいのでは?

・クローゼット内部は除湿剤置いたり、定期的に開放したりして普通に湿気対策してたけど、その上で発生してるのはもう「経年による通常損耗」としか言いようがないのでは。あと窓枠のカビとクローゼット内部の湿気に客観的な因果関係があるとは言えないのでは?

・ロフト床の謎の文字はマジで心当たりないし、普通に使ってた結果浮かび上がったやつだから、通常損耗の範囲としてそっち負担にしてほしい。あと立ち合いの録音データ聞いても、50%負担の話は出てないぜ。

・フローリングの傷はキッチン周りに集中してるけど、限定的な範囲の修復に5万円以上かかるのはなんで?

といったこちらの主張・疑問をまとめた上で、改めて金額の再調整を求める返信を送った。

内容も父に確認してもらった上で

「大部分は『通常損耗を越えた』と判断できる客観的な証拠を出すのは難しいポイントだと思う」

との見解だったので、「まぁさすがにこれで大幅な減額になるのでは」と予想。

【祝!大幅減額!…とはならず】

数日後、管理会社から返信があった。

「クロスの貼替と、ロフトの謎シミについては先方で全額負担する」旨の連絡が来た。あたぼうよ。

しかし、それ以外の箇所については施工内容や請求金額の相場を判断した上で「減額は認められない」という。バカな。

追加で来た先方からの回答内容で、注目すべき点は2点あった。

・フローリングは傷より凹み傷が多いし、10か所以上発生してるから55,000円だよ

・クローゼット内部剥離は同じ物件の他の部屋では発生してないし、室内にカビが一か所でも発生してるし、リモコン紛失とか通常あり得ないトラブル事例も発生してることを考えると、クローゼットの管理が適切に行われていたってのは無理があるぜ。

あと入居時にサインした書類に、「修繕が必要な箇所が発生したら7日以内に管理会社に報告せよ」という義務があるじゃろ。この報告義務も果たしてないから減額はしないぜ。

うーむ。凹み傷つったって、主に食器が落ちた時にできたものだから、次の入居者の生活に支障が出るレベルででっかくバーンとえぐれているようなものではない。どれも、直径も1cm未満くらいのサイズである。こちらで退去前に撮影した該当部分の写真を見返しても、凹みより傷のがメインに見える。

また、先の準備書面にも書いたが、傷はキッチン内の1m四方くらいの中に集中しているのだ。やはり、「どんな修繕施工をしたら55,000円になるんじゃ」という詳細がわからないことには、納得がいかない。

クローゼット内部に至っては、クローゼット内の壁紙にもカビが発生しているとかならまだしも、リモコンの紛失なども挙げて「他のポイントでも通常起こりえないトラブルがあるから、クローゼットだってちゃんと管理してなかったに違いない」とするのは、さすがに言いがかりもいいところである。あと、退去時に初めて気づいたんだから、発生時に報告するなんて無理に決まってるでしょう!!!!!!

さらにさらに、先方からのメールには、最終的な金額が書かれた請求書も添付されていないではないか。どういうことだってばよ。

ひとまず先方からもらった回答を父に確認してもらったところ

「うーん、これは

『相手が7年以上使用による通常損耗を超える損害立証がないまま敷金・預り金の返還を拒否している』

という主旨で少額訴訟したがいいかも」

との話だった。かくして、少額訴訟で解決をはかることを決めたのである。

【「訴訟での解決を」と伝えたら衝撃の返答が】

取り急ぎ、管理会社に

・請求書の添付忘れてまっせ

・改めて納得いかない点が残ってるから「施工業者とのやり取り、施工内容、業者に支払った金額等」が分かる詳細を開示してケロ

・詳細確認の上で、少額訴訟による解決を求める

という旨を書いたメールを送った。

後日、なんと先に送ったメールに対する返信もないまま、先方から内容証明郵便で請求書が届いたではないか。

「内容証明郵便」とは、

「一般書留郵便物について、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度」(郵便局のHPより引用)

である。要するに、「ちゃんと請求書送ったからな、『送られてきてない』とか言い逃れできねぇからな」という証明となるわけだ。

今回調べて初めて知ったのだが、請求側から内容証明郵便を送って来るケースは、強めの「争いまっせの意志表示」らしい。怖いわ。

父曰く

「ビビらせて裁判させないようにする魂胆だと思うから、スルーしてそのまま訴訟手続きを進めよ」

とのことだった。

ちなみに、請求書には「ロフトシミ、クロス張替え費用を差し引いて、残り7万円の請求ナリー」と書かれていた。壁紙と床のシミ分が先方負担になって多少減ったからとて、まだまだゴリゴリの「-」である。

さらにさらに。内容証明郵便の到着から数日後、先方の担当者から

「訴訟手続き進めてるみたいなんで、詳細の開示はしまへん」

というメールが届いた。なんじゃそりゃ!!!!

請求内容に対して消費者から詳細の開示を求められて、拒否する業者があるか。

というか、通常然るべき手続きを踏んで正当な価格の原状回復費用を請求している(はず)なんだから、訴えられよう何されようがお構いなく、正々堂々詳細を開示すればよいだけの話ではないか。

引き渡しからこれまでの先方の対応に疑問点とツッコミどころが多すぎるので、かえって訴訟に進む心的ハードルが下がった。

【裁判篇の前に】

さて、ここからようやく裁判篇に入る訳だが、ここまでお読みいただいた方の印象的にはどうだろうか。

正直

「いや、完全潔白ならともかく、借りた側にもけっこう非があるしなぁ。ここに書かれている内容だって、借りた側にとって不都合な部分をカットした偏った内容かもしれない。現時点では、どっちがモンスターか分からない

という感じではないだろうか。私もそう思う。

私から見ると管理会社は「なぜか詳細を開示しないまま高額請求してくるモンスター管理会社」に見えていたし、管理会社側からみた私は「自分でけっこう非を認めてるくせに、なんかめっちゃごねてくるモンスター入居者」に見えていたことだろう。

まず何より、ここまで書いた内容については先方とのやり取りを全て記したものではない。トラブルの状況についても、嘘偽りなく書いたつもりでいるが、あくまで私が認知している範囲の話である。

もちろん手元には損害箇所の実際の写真データも残ってはいるが、さすがにこれをこの記事に載せるわけにもいくまい。この記事内で「実際どの程度のトラブルだったか」を客観的に示すにも限界があることはご理解いただきたい。

ただ、ここで改めてご承知おきたいのは、私は決して

「全部100%管理会社が悪い!許せねぇ!!」という立場ではない

ことだ。

あくまで

「引渡し前にトラブルが発生して迷惑をかけてゴメン!

こちらの過失として必要な分はきっちり払うつもりでいるけど、貰った内容だと一部疑問なポイントもあるから、請求内容の妥当性を示す詳細を教えてくれ!!!

その上で改めて金額の確認・交渉させてくれ」

という、当たり前の手筈を踏みたいだけだ。

しかし、なぜか向こうがそれに応じないので、裁判をするのだ。当事者間でやっていたら主張が食い違って埒が明かない問題について「少なくとも法的に見ると、どちらに客観的な理があるか」を明らかにするわけだ。

引き続き、この記事は私の感情をふんだんに盛り込んだテンションで書くが、法律家である父の見解パート及び、裁判での判断内容については事実のみ書くと誓う。

次ページ:少額訴訟での解決を求めたら、予想外の展開に

5 件のコメント

  • 読み応えのあるレポートで、思わず一気読みしました。勝訴に近い和解、ご苦労様でした。
    数年前、娘の交通事故被害の損害賠償請求で、損保会社と交渉をしたときのことが記憶に蘇りました。保険会社はいかに賠償金額を下げるかに会社業績がかかっているのでなかなかタフな交渉でしたが、不動産管理会社も似たところがあるのでしょう。

  • この記事を書いてくださり本当にありがとうございます!!!
    長年のモヤモヤがスッキリいたしました。

    もう10年以上前の事ですが、
    一人暮らしのアパートから結婚を機に引っ越すときに
    同様に
    避難ハシゴの件で大家さんに文句を言われました。

    「押入れの中にあったはずのハシゴが
    なぜベランダにあるのか?
    野ざらしになってボロボロになった。弁償だ!
    払わなければ敷金礼金も返さない」
    と言われ、
    10年も住んで今まで仲良く一階と二階で住んでたのに
    そんな事でキレられてショックでした。

    不動産会社の立ち会いの人も
    「でも避難はしごを押し入れにしまっておくのもおかしな話だし、ベランダに置いておいても変ではない」
    と言ってくれたし
    私も
    「綺麗なまま取っておいてとも言われていないし
    そんなにボロボロでも無い。
    隣の部屋のベランダをいま覗いてみても
    ほら、はしご置いてありますよ?
    説明不足じゃないですか?」
    と言っても
    全然聞く耳を持たず。
    それこそ「訴えてくれても良い」みたいな強気。
    長引きました。

    結婚準備もあり、そんな事でイライラするのも悲しかったので

    「このままじゃ埒があかないので
    お互いに折半でどうですか?
    新品を買うと2万なので、1万ずつで!」

    交渉を持ちかけたらokに。

    1万円もらって、その上で
    楽天で1万円くらいで新品見つけて
    GETしました。笑
    私の金銭負担はなく、気持ち的にも大勝利でした。

    でも納得いかない想いと
    あんなに仲良かった大家さんと最後にモメてしまったのがずっと心残りでした。

    でも、この記事を読んで
    「私やっぱり間違ってなかったじゃん!!
    しかも
    減価償却って考え方もあったのか!
    それに
    訴えてたらこんなに時間かかって
    イライラもする事になってたのかー!
    ほんとお疲れ様でございます…」

    あの頃の気持ちがよみがえりました。

    あの時に、この記事が検索できていたら。
    いや、
    今後引っ越す人の目にふれることを願って。

    重ね重ね、貴重な記事をありがとうございました!!!

  • こんにちは。全て読ませていただきました。
    貴重な情報をありがとうございます。
    私もまさに昨日不動産屋さんから28万円余りの退去費用の請求をされ、国土交通省のガイドラインや、他ネットの情報を熟読している所です。
    発生から裁判終了まで丁寧に説明いただき、概要が掴め、とても心強く思いました。
    弁護士さんのお父様のご意見も、とても貴重でありがたく参考にさせていただいております。
    また、軽快な語り口で、難しい内容もすんなり理解でき、むしろ楽しく読ませていただきました。ありがとうございました!
    今日明日で自分の主張をまとめ、不動産屋にファックスしようと思っています。
    頑張ってみよう、という勇気をいただきました。
    ありがとうございました。

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