【第1回口頭弁論の結果やいかに】
そして、ついに迎えた第1回口頭弁論期日。
先方はともかく、こちらからは割と詳細な情報をすでに提出しているので、
「裁判官から開口一番『これ君ね、勝ち目ないよ』とか言われたらどうしよう」
等々、不安を抱えながら簡易裁判所に向かった。
法廷に入ると、書記官から「出廷しました」と示す紙への記名を求められ、そのまま法廷の中に入るよう促された。
法廷は円卓だった。よくドラマなんかで見るお立ち台みたいな場所があり、その正面に裁判官書記官が座るデカい机があるみたいな構図ではない。簡裁ということもあってか、小規模な法廷である。
椅子に腰かけ、カチコチで待機していると、裁判官が法廷に入ってきた。
裁判官は、穏やかな物腰で話す老齢の男性だった。裁判官というと、やはりドラマなんかで厳つい表情で「静粛に!!!」と声を張り上げたりするイメージが強かったから、ホッとすると同時に緊張が少しとけた。
裁判官が今回の訴訟の概要と、双方から提出された資料の内容等を読み上げ、間違いなどないかの確認を受ける。
確認が完了して、いざ裁判スタート!と思われたが…
裁判官は
「今日は先方の担当者もいないし、向こうからは答弁書だけで証拠とかも提出されてないでしょう。
申し訳ないけど、今日はもうこれ以上やれることはないかな」
と言った。うん、ですよね。
裁判官「あとね、被告側は『反訴したい』と言ってるみたいなんだけど、ご覧の通り証拠とか出てない状況だから、『まずは証拠を出してね』と伝えました」
書記官「ですね、まず証拠がないことには…」
裁判官も書記官もやや苦笑いしている。裁判官のほうでも、現時点では先方の証拠は不足しているという認識のようだ。
そして、新情報として「相手は反訴を希望している」ことが分かった。「反訴」とは読んで字のごとく、訴えられた被告が原告を訴え返すことである。
それは分かるのだが、なぜ何も進んでいない今の段階で反訴しようと思ったのだ。謎だ。
ということで、その場で第2回口頭弁論の期日の候補日時を決め、そのまま解散となった。この間、入廷からわずか10分くらいである。
昨夜の寝床でのドキドキと、裁判官への受け答えを脳内シミュレーションしまくった時間を返して欲しい。
【新たに提出された書類の謎】
第2回口頭弁論は、ちょうど1か月先。その間にまた先方から答弁書やら証拠資料が届き、必要があればその内容に対してこちらからも新たに答弁書を送ることになる。
第2回口頭弁論からは先方の担当者の出席も必須となるから、双方の言い分や資料が揃ったところで、ようやく本番に入るわけだ。
第1回口頭弁論から2週間くらいして、裁判所から部厚い封筒が届いた。待ってましたの、証拠提出である。
「向こうは通常訴訟に移行した上に反訴までしたいと言っているんだから、きっとよほど勝てる自信があるんだろう。法人だから顧問弁護士とかもいるだろうし。
完膚なきまでの詳細な証拠が揃ってたらどうしよう」
と、さすがに気が気でない。いよいよ先方が重い腰をあげてきたのだ!
心臓バックバクで封筒を開けると、
・解約清算書の写し
・賃貸契約時の契約書等の写し
・退去時の室内情況チェック表
・トラブル箇所の写真
・施工業者に払った施工代の領収書
・反訴状
が出てきた。私はまたしてもズッコケた。
というのも、「施工業者に払った施工代の領収書」以外は、全て既にこちらの手元にある資料である(トラブル箇所の写真も、最初の請求のタイミングでメールで送られてきていた)。
先日提出した、私からの言い分に対する新たな答弁書とかも入っていなかった。
つまり、今回新しく出てきた資料といえば、「施工業者への領収書」だけ。
しかし、こちらもまた項目と金額のみで詳細は書かれていないので、情報的には私の手元にある原状回復費用の請求書とほぼ同じである。
…いやだから、施工内容の詳細は??????
一番求めている情報が、今回も今回とて入っていないのだ。
そもそも、施工業者への領収書以外は裁判になる前から既に手元にあるはずなんだから、第1回の口頭弁論期日までに出せるはずである。ここまで引き延ばして、ようやくこのタイミングで提出してきた意味が分からない。
なんだ、第2回口頭弁論期日を前にしてなお、この出てくる情報の解像度の低さは。
とりあえず、提出された資料を父に送って確認してもらったところ、さらに衝撃の事実が発覚する。
「領収書に書かれてる施工業者の社名も住所も代表者氏名も、ネット検索しても出てこないし、登記もされてないみたい。
会社としての実態があるのかどうか調べて」
ホワッツ??????????????????????
確かに、領収書に書かれている情報検索しても、何の情報もヒットしない。このご時世、会社のHPも無いなんてことがあるのだろうか。
そして国税庁の検索サービスで法人番号を調べても出てこない。妙だな。
登記については、設立されたばかりの会社だった場合はまだ登記が間に合ってない場合もある…のか?にしても、そんな登記から間もない会社に高額な施工を依頼することなんてあるだろうか?
新たに提出された資料も、謎が謎を呼ぶ内容とは。なんだこれは。
提出された資料について、父のサポートのもと答弁書を作成する。こちらからの主張のポイントは以下の通り
・反訴の内容を全部否定する
・再三求めてるのに費用の詳細や施工の内容を裏付ける証拠を出さないのはなぜ?
・施工業者の情報検索しても全然出てこないけど、実態ある?確定申告等の実績を示す資料を出してケロ
・とにかく「通常損耗を越えた」と判断する根拠が出てこないから、請求内容には正当性が無い
【ほぼ沈黙のまま進む第2回口頭弁論】
そして迎えた第2回口頭弁論期日。
先方の担当者は管理会社代表の代理人で、私の知らない人だった。「退去日の立ち合いの場に居合わせた担当者が来たら気まずいな」と思っていたので、ちょっとほっとした。
前回とおなじく円卓に座り、裁判官と書記官も着席する。さぁ、いよいよ裁判本番の幕開けである。
まず、先方の担当者が今回初出廷ということで、「法廷では嘘偽りのない発言をすると誓います」という選手宣誓のようなものを行った。
その上で、前回同様、双方から提出された資料の確認が行われる。諸々準備が整ったところで、裁判官が席を立った。
裁判官はまず私に
「敷金返還を求める裁判ということで、基本的には被告(管理会社)側に客観的な証拠や根拠を示す説明責任があります。
ということで、基本的にはあなたではなく相手方の担当者に話を聞く形になるからね」
と言った。
てっきり、双方の話を聞いて、時に主張が食い違ったら「異議あり!!!!!」と叫んだりする激しい応酬が発生するもんだと思っていたので、拍子抜けした。
裁判官は先方の担当者に対して、提出された資料と各主張の整合性を確認していった。そして、
「提出された資料、写真だけだと全体的に客観的な根拠としては弱いよね」
とばっさり切り捨てた。うん、ですよね、やっぱり。
気になっていたリモコン・ハシゴの交換費用と、ルームクリーニング費用については
「リモコン、ハシゴは紛失の場合でも減価償却が認められる可能性が高いよね。
ルームクリーニング費用については、私としては、『特約に詳細が書かれていなくても有効である』という判断。ただ、それはガイドラインに則って物件の面積に対する相場から相対的に判断するから」
とのことだった。リモコンとハシゴについては父と裁判官の見解が一致、ルームクリーニング費用は見解が分かれたようだ。
さて、なんせ先方からはまともな証拠が提出されていないので、裁判官とのやり取りも10分もかからず終わった。私もほぼ発言していない。ここで嫌な予感が走る。
裁判官「今の弱い証拠だとまだ判断できないから、施工業者とのやり取りとか、施工前後の解像度の高い写真とか、もっと詳細な証拠を出してください。そもそも出せるの?」
先方「…出せます」
裁判官「どれくらいかかりそう?」
先方「1か月くらいあれば…」
やっぱ1か月延長キター!!!!
私は声を大にして叫びたい。
「詳細な証拠出して」とは提訴の前から再三言ってるじゃない!!案の定、裁判官からも同じものを求められてるし!!!出せるならなぜっ、なぜ今日持ってこないの!?
こうして、第2回口頭弁論は「証拠不十分」の課題つきで解散。この間、入廷からわずか15分くらいである。
そして+1か月の延長。なんだこの不毛なやり取りは。
次ページ:第3回口頭弁論からの決着篇
面白い❗️文章上手。めちゃくちゃ為になった。
ちょうど引っ越す前なので、興味深く読ませていただきました。
読み応えのあるレポートで、思わず一気読みしました。勝訴に近い和解、ご苦労様でした。
数年前、娘の交通事故被害の損害賠償請求で、損保会社と交渉をしたときのことが記憶に蘇りました。保険会社はいかに賠償金額を下げるかに会社業績がかかっているのでなかなかタフな交渉でしたが、不動産管理会社も似たところがあるのでしょう。
この記事を書いてくださり本当にありがとうございます!!!
長年のモヤモヤがスッキリいたしました。
もう10年以上前の事ですが、
一人暮らしのアパートから結婚を機に引っ越すときに
同様に
避難ハシゴの件で大家さんに文句を言われました。
「押入れの中にあったはずのハシゴが
なぜベランダにあるのか?
野ざらしになってボロボロになった。弁償だ!
払わなければ敷金礼金も返さない」
と言われ、
10年も住んで今まで仲良く一階と二階で住んでたのに
そんな事でキレられてショックでした。
不動産会社の立ち会いの人も
「でも避難はしごを押し入れにしまっておくのもおかしな話だし、ベランダに置いておいても変ではない」
と言ってくれたし
私も
「綺麗なまま取っておいてとも言われていないし
そんなにボロボロでも無い。
隣の部屋のベランダをいま覗いてみても
ほら、はしご置いてありますよ?
説明不足じゃないですか?」
と言っても
全然聞く耳を持たず。
それこそ「訴えてくれても良い」みたいな強気。
長引きました。
結婚準備もあり、そんな事でイライラするのも悲しかったので
「このままじゃ埒があかないので
お互いに折半でどうですか?
新品を買うと2万なので、1万ずつで!」
と
交渉を持ちかけたらokに。
1万円もらって、その上で
楽天で1万円くらいで新品見つけて
GETしました。笑
私の金銭負担はなく、気持ち的にも大勝利でした。
でも納得いかない想いと
あんなに仲良かった大家さんと最後にモメてしまったのがずっと心残りでした。
でも、この記事を読んで
「私やっぱり間違ってなかったじゃん!!
しかも
減価償却って考え方もあったのか!
それに
訴えてたらこんなに時間かかって
イライラもする事になってたのかー!
ほんとお疲れ様でございます…」
と
あの頃の気持ちがよみがえりました。
あの時に、この記事が検索できていたら。
いや、
今後引っ越す人の目にふれることを願って。
重ね重ね、貴重な記事をありがとうございました!!!
こんにちは。全て読ませていただきました。
貴重な情報をありがとうございます。
私もまさに昨日不動産屋さんから28万円余りの退去費用の請求をされ、国土交通省のガイドラインや、他ネットの情報を熟読している所です。
発生から裁判終了まで丁寧に説明いただき、概要が掴め、とても心強く思いました。
弁護士さんのお父様のご意見も、とても貴重でありがたく参考にさせていただいております。
また、軽快な語り口で、難しい内容もすんなり理解でき、むしろ楽しく読ませていただきました。ありがとうございました!
今日明日で自分の主張をまとめ、不動産屋にファックスしようと思っています。
頑張ってみよう、という勇気をいただきました。
ありがとうございました。