引っ越しで「高額な原状回復費用」を請求されたけど、父が弁護士だったから何とかなった

こんにちは、ふ凡社です。

2023年1月に引っ越しをした。

引っ越しにあたって、元々住んでいた物件の管理会社から高額の「原状回復費用」を請求された。大変ビックリした。

「いや、その請求内容はおかしいでしょ」と交渉を試みたが、双方の主張は平行線で埒があかない。さてどうしたものか。

私は不動産や賃貸周りの知識についててんで素人だが、一つ大きなアドバンテージがあった。

父が弁護士なのだ。

奇しくも、秒でアクセスできる一親等に法のプロフェッショナルがいる。「この七光り、今使わなくて、いつ使う」ということで、弁護士ダディの全面サポートを受けつつ「はじめての訴訟」をやることにした。

結論から言うと、私は父のおかげで高額な支払いを回避することができた。いっぽうで、決着に至るまでの道のりはかなり大変だった。

この記事は、問題発生からどんな流れを経て裁判にいたり、どんな決着がついたかまでをまとめたレポートである。

「原状回復費をめぐるトラブル」は、国が解決のためのガイドラインを公に発表しているレベルでとかく頻発している。もしここにたどり着いた人が似たようなシチュエーションに立たされていたとしたら、この記事が一例として参考になれば幸いである。

あと、書いてみたら2万字超えのはちゃめちゃに長い記事になったので、結論から読みたい人は6ページ目から読んで欲しい。

とはいえ、あんまりにも長くて「誰が読むんだ」という感じもするので、忙しい現代人に向けたダイジェスト版も公開した。時間はないがアウトラインは知りたい、という人はこちらを参照されたし。

【ダイジェスト版】引っ越しで「高額な原状回復費用」を請求されたけど、父が弁護士だったから何とかなった

 

【事前に確認していたトラブル】

私は件の物件に7年ちょっと住んだ。

入居当時、物件は新築で、住んでいた部屋は私が入居者第1号だった。つまり、物件の中で発生した傷や破損等のトラブルは全て私の入居中に起きたものである。

しかし、7年以上も同じ部屋に住んで、何のトラブルもなく完璧な状態で明け渡しできるほうが至難というものだろう。私の場合も御多分に漏れず、退去時点で部屋の各所に破損などのトラブルがいくつか発生していた。

私のほうで事前に認知していた主なトラブルは、以下の通りだ。

1、キッチンの床に包丁や食器を落とした時にできた傷が複数箇所ある

2、ロフトのフローリング全体に「謎の文字のシミ」が浮かび上がっている

3、冷蔵庫置き場の「巾木」が一部破損している

4、「照明のリモコン」を紛失しているので新品を買う必要がある

5、「緊急避難はしご」を破棄したので新品を買う必要がある

各項目について概要をご説明する。

キッチンの床の傷

食器等落としてできた傷であり、こちらは言うまでもなく私の過失である。軽微な傷がメインだが、一部フローリングの板がぺりっとめくれるような凹み傷もあった。

ロフトのシミ

ロフトは寝室として使っていたのだが、すのこベッドや置いていたものを全て撤去した段階で、緑色の文字やら記号やらが混じった謎のシミがロフト全体に浮かび上がっていた。

しかし、入居期間中に文字が裏映りするようなものは設置しておらず、また浮かび上がり方もロフト全体に渡るものだったので、「原因はよくわからないが少なくとも自然発生したものであることだけは確か」だった。

恐らく、物件を施工した業者が置いていた資材かなんかの文字が裏映りするなどして、経年とともにその部分だけシミの形で浮かび上がったとか、そんなんじゃないかと思う。

冷蔵庫の巾木

四方を壁に囲まれた冷蔵庫置き場の巾木の一部が、えぐれるように剥離していた。冷蔵庫を撤去したタイミングで気づいたので、いつ何時、何によって発生したかは不明。

しかし、外的衝撃が加わった結果生じた剥離であることは明らかだったので、こちらも私の過失であることは間違いない。

照明リモコン、避難ハシゴ

照明のリモコンを紛失してしまった。掃除の際に誤ってゴミ袋に入れる等して失くしてしまったものと考えられる。

避難ハシゴは袋に入ったタイプで、入居中に一時的にベランダに置いていた時期があり、退去の段階で状態を確認したところ、全体が錆びてしまっていたことを確認した。

「これはどう見ても買い替え必須だな」と判断し、退去前にこちらで破棄。リモコンとあわせて、ハシゴもまた明確に私の過失なので、原状回復費用とともに新品購入費用の請求が発生するものと考えていた。

【退去の立ち合い時に発覚したトラブル】

退去日に管理会社の担当者立ち合いのもと部屋の状況をチェックしてもらい、その際に新たに追加で認知したトラブルもあった。

1、窓枠、ベランダに汚れが残っている

2、クローゼットの内部が一部剥離している

窓枠、ベランダの汚れ

退去にあたり、可能な限り部屋の隅々まできれいにして明け渡したつもりだったが、窓枠の汚れを掃除するのを忘れていた。また、網戸がついてないほうの窓はほとんど空けなかったので、経年の汚れがかなり残ったままだった。これについても完全に私の落ち度である。

ベランダは、ベランダといっても人が出れるようなものではなく、窓の外に落下防止柵みたいなものものがチョロっと張り出してるだけのスペースである。ここの表面にも一部カビ汚れが発生していた。

この2点については、担当者は「まぁ通常のクリーニングの範囲で落ちれば大丈夫だと思うけど」と言っていたので、その結果を待つことにした。

クローゼットの内部剥離

クローゼットの内部剥離は説明が難しい。

クローゼットは二段になっていて、上部に物を置ける棚があった。この棚の下部は、クローゼットの壁に沿う形で、棚板を支えるための木材で囲われている。

この木材の表面をコーティングする素材が、全体的に剥離してボコボコと浮き上がっている、というのだ。

私は退去の際に担当者に言われてはじめて、この剥離が発生していることを知った。

なんつったってこの剥離、クローゼットの棚を下からのぞき込む形でしか確認できないのだ。入居中、棚の直下にたくさんのハンガーと衣服がかかっている状況でそんな場所をわざわざのぞき込む訳もない。そもそもそんな箇所に剥離が発生するとはつゆ思わないので、退去前に物を全部撤去した時点でも確認していなかった。

「さすがにこれに気付くのは無理ゲーでは…」

という感じだったので、「まぁ原状回復費用で費用を請求されることはなかろう」と思っていた。この剥離が、後に裁判の重要な火種として擦られ続けることも知らず…。

【数万円戻れば御の字だな、と思っていた】

退去日に以上のトラブルについて、私と管理会社の担当者双方で確認した上で

「原状回復費用が確定したら追って連絡する」

と言われた。

上記の通り、私のほうでの落ち度がけっこうあった。しかし、ここで確認しておきたいポイントとしては、原状回復の定義は「入居時と同じ状態で明け渡すこと」ではないということ。

(冒頭でちらっと書いた)国が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復の定義は

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

となっている。つまり、入居期間中に普通に部屋を使っているうちに発生する経年劣化などの「通常の損耗」については借主が負担する必要は無いのだ。

となると、原状回復費用の請求にあたっては、先に述べたトラブルたちが「通常の損耗を越えるかどうか」が判定基準となる。

そして「通常の損耗を越える」と判断された損失については、入居者が契約時に管理会社に収めていた「敷金」や、退去前に支払っていた家賃などの「預け金」などの合計から差し引くことになる。

万一、原状回復費用が敷金預け金の合計を上回った場合、差額が借主に請求されることになるわけだ。

私が管理会社に納めていた金額は、敷金と預け金を合わせると約10万円明け渡し時に何の過失もなければこの10万円は満額戻ってくるわけだが、既に記載したとおり、明らかに私の過失で発生した損失があるので

「いろいろ差し引いて数万円くらいは戻って来るかな。最悪差し引きゼロでトントンくらいになる可能性もあるかも…?」

くらいの予想をしていた。ところが。

退去後2週間くらいして送られてきた請求書には、請求額10万円」と書かれていた。え、なんて?????

トントンどころか、-10万円である。何が起きているのかさっぱり分からなかった。

【不信感の残る請求内容】

管理会社が請求してきた、私が負担すべき(らしい)金額の概要は以下の通り。

・壁紙クロスの貼替一部負担金 15,000円

・キッチンの床傷リペア代 55,000円

・冷蔵庫巾木交換代 12,000円

・ルームクリーニング代 40,000円

・ロフト床の貼替代 19,000円

・クローゼット内部剥離補修 25,000円

・避難ハシゴ代 20,000円

・照明リモコン代 5,000円

・諸経費 5,000円

これらを合計すると、だいたい20万円になる。そこから預け金の10万を差し引いて、「10万の請求ナリ~」という訳だ。

まず思ったのは、

「なんか全体的に、高くね?」

ということだ。リモコン、避難ハシゴの新品交換代はともかく、各トラブルについての補修金額が全体的に想像の倍くらい高い。特に、キッチンフローリングの傷補修が55,000円ってなんだ。

続いてご注目いただきたいのは、「壁紙クロスの貼替費用(一部)」まで請求されている点だ。

壁紙クロスは、退去にあたっては全貼替の対応になることが多い。

ただ、壁紙クロスについてはその性質上、どう扱っても経年劣化するものなので、先のガイドラインではその点を考慮して「壁紙クロスの残存価値は6年で1円になる」と定められている。

つまり、6年以上住んでいる物件では壁紙の交換費用は本来発生しないはずなのだ。

これは件のガイドライン内でも有名なポイントで、英語の教科書における「This is a pen」レベルの知識である。もちろん私も退去にあたって事前にガイドラインを参照していたので、「壁紙の劣化は当然考慮に入れなくて大丈夫だな」と思っていた。

にもかかわらず、普通に一部費用が請求されている。この時点で既に、管理会社に対する不信感はマックスである。

この1点だけでも「こっちが無知な素人だと思って、いろいろ水増し請求してるんとちゃうか」と思ってしまうのも無理からぬ話ではないか。

しかし、一点を見てその他の点まで疑うのはご法度。まずやるべきは、詳細の確認である。

次ページ:泥沼の金額交渉から訴訟での解決を決意するまで

5 件のコメント

  • 読み応えのあるレポートで、思わず一気読みしました。勝訴に近い和解、ご苦労様でした。
    数年前、娘の交通事故被害の損害賠償請求で、損保会社と交渉をしたときのことが記憶に蘇りました。保険会社はいかに賠償金額を下げるかに会社業績がかかっているのでなかなかタフな交渉でしたが、不動産管理会社も似たところがあるのでしょう。

  • この記事を書いてくださり本当にありがとうございます!!!
    長年のモヤモヤがスッキリいたしました。

    もう10年以上前の事ですが、
    一人暮らしのアパートから結婚を機に引っ越すときに
    同様に
    避難ハシゴの件で大家さんに文句を言われました。

    「押入れの中にあったはずのハシゴが
    なぜベランダにあるのか?
    野ざらしになってボロボロになった。弁償だ!
    払わなければ敷金礼金も返さない」
    と言われ、
    10年も住んで今まで仲良く一階と二階で住んでたのに
    そんな事でキレられてショックでした。

    不動産会社の立ち会いの人も
    「でも避難はしごを押し入れにしまっておくのもおかしな話だし、ベランダに置いておいても変ではない」
    と言ってくれたし
    私も
    「綺麗なまま取っておいてとも言われていないし
    そんなにボロボロでも無い。
    隣の部屋のベランダをいま覗いてみても
    ほら、はしご置いてありますよ?
    説明不足じゃないですか?」
    と言っても
    全然聞く耳を持たず。
    それこそ「訴えてくれても良い」みたいな強気。
    長引きました。

    結婚準備もあり、そんな事でイライラするのも悲しかったので

    「このままじゃ埒があかないので
    お互いに折半でどうですか?
    新品を買うと2万なので、1万ずつで!」

    交渉を持ちかけたらokに。

    1万円もらって、その上で
    楽天で1万円くらいで新品見つけて
    GETしました。笑
    私の金銭負担はなく、気持ち的にも大勝利でした。

    でも納得いかない想いと
    あんなに仲良かった大家さんと最後にモメてしまったのがずっと心残りでした。

    でも、この記事を読んで
    「私やっぱり間違ってなかったじゃん!!
    しかも
    減価償却って考え方もあったのか!
    それに
    訴えてたらこんなに時間かかって
    イライラもする事になってたのかー!
    ほんとお疲れ様でございます…」

    あの頃の気持ちがよみがえりました。

    あの時に、この記事が検索できていたら。
    いや、
    今後引っ越す人の目にふれることを願って。

    重ね重ね、貴重な記事をありがとうございました!!!

  • こんにちは。全て読ませていただきました。
    貴重な情報をありがとうございます。
    私もまさに昨日不動産屋さんから28万円余りの退去費用の請求をされ、国土交通省のガイドラインや、他ネットの情報を熟読している所です。
    発生から裁判終了まで丁寧に説明いただき、概要が掴め、とても心強く思いました。
    弁護士さんのお父様のご意見も、とても貴重でありがたく参考にさせていただいております。
    また、軽快な語り口で、難しい内容もすんなり理解でき、むしろ楽しく読ませていただきました。ありがとうございました!
    今日明日で自分の主張をまとめ、不動産屋にファックスしようと思っています。
    頑張ってみよう、という勇気をいただきました。
    ありがとうございました。

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