もしあなたが失恋したとして。ストレス発散方法、何が思い浮かぶだろうか。
失恋ソングを聴いたり、カラオケにいったり、暴飲暴食したり、友達に慰めてもらう。バッティングセンターに行く人なんかもいるかもしれない。
私にはこの程度の平凡な選択肢しか思い浮かばないが、
世の中には、失恋して一発目に滝行に行く人間が存在する。
世界のそこかしこに存在するふ凡人にインタビューをするシリーズ「ふ凡大陸」。お相手は、人生の全てをコンテンツに昇華する失恋界の風雲児・肘@失恋フェス氏だ。
第一章:過激派失恋芸人と「失恋フェス」
まず基礎情報として、肘氏は複数の肩書を持っている。やたら癖の強いワードセンスで彩られた肩書たちの由来と、それぞれを名乗り始めた理由から、肘氏の人生を紐解いていくことにする。
鈴「最初に、肘さんが名乗っている肩書を教えてください」
肘「まず、肩書の原点となったのが、新卒の時に名乗り始めた『コミュ障ゆとり新人社員』。続いて、失恋を期に始めた『過激派失恋芸人』。そして、メイドカフェに通う『瞬足ご帰宅お嬢様ガチ勢』として、『メイドカフェポータルZ』というブログの管理人をしています」
鈴「どこから突っ込んでいいか分からないくらい強い肩書が並んでいますね(笑)。では、まず“過激派失恋芸人“の話から聞いてもいいですか」
肘「2018年3月5日に元カレと別れたんですよ、当日、塵芥※の誕生日を祝っていたんですが、その時に『好きな人ができた。でも別れたくはない』とか言われて」
※編集部注:肘氏は元カレのことを「ゴミ」と呼んでいたが、鈴木からゴミと書くのは心理的に憚られるので、本記事では塵芥(ちりあくた)氏と呼ぶことにする。
鈴「んんん?」
肘「そうなりますよね。私も『んー?ちょっと言ってる意味がわかんないなー?』ということで、塵芥の目の前でマッチングアプリに登録してやりました」
鈴「目の前で(爆笑)。実に過激ですね。で、そこから失恋フェス※が始まったと」
※失恋フェス…肘氏による、失恋を原動力にあらゆるアクティビティに挑戦する一連のコンテンツのこと
肘「そうなんです。第一弾として、失恋した次の日にSNSで『滝行をやります』と宣言し、3月21日には滝行に行きましたね」
鈴「行動力の化身ですね。ほかにも数多くの発散方法がある中で、なんでまた滝行を?」
肘「なんか、思いっきり変なことやりたいと思ったんです。で、ノリとフィーリングで滝行に至りました」
鈴「あ、別に前からやってみたかった、とかではないんですね」
肘「全くなかったですね。衝動のまま滝行やるぞ、と行った訳ですが、当日は春も近いのに記録的な大雪の日で。友達も何人か一緒に行ったんですが、その中から過呼吸になる人が出るくらい過酷でした。でも、これを乗り越えたことで肘は強くなりました」
鈴「文字通り、死線を潜り抜けたんですね。滝行から何か変わったことありますか?」
肘「滝行は、私のほかに何人か友達も引き連れていったんですが、すごく楽しかったんです。その時、『失恋してただ落ち込むのではなく、全てをネタにすることで自分も周りも元気になれるのでは?』と気づきました」
鈴「滝行が、失恋フェスの着火剤になったんですね」
肘「はい。失恋すると、怒りや悲しみではなく、不思議な力が湧いてくるんですよ。『今人生で一番楽しいことできるんじゃないか?』って。カラオケでオールした後に二時間くらい寝て、そのまま次の夜まで遊び倒したりしても全然疲れなかったですね」
鈴「完全にキマってるじゃないですか」
肘「そうなんです。失恋はドラッグなんですよ」
失恋はドラッグ。文字だけ見ると何を言っているのかさっぱりわからないが、肘氏のクレイジーでエネルギッシュな生き様がよく表れた名言である。
第二章:失恋は元カレからもらった一番のプレゼント
せっかくなので、もう少し塵芥氏の話を掘り下げてみる。
鈴「ちなみにですが、塵芥氏と一緒にいた期間はどれくらいだったんですか?」
肘「私は3年半付き合ってたと思っていたんですが、別れた後の塵芥を見る限り、彼が今の奥さんと結婚する前、その方と交際していたと公言している期間と、私と別れてからの時間との計算が合わなかったんですよね」
鈴「あれまぁ」
肘「なので、私は塵芥と付き合っていた期間は無効だと考えています」
鈴「そうですね、それは正当な主張として認められると思います」
肘「ですから、肘は実質6年半彼氏がいないということになりますね」
鈴「笑。別れた後になって『あれ、アイツ、自分と付き合ってる間にすでに別の人がいたんじゃ?』って判明する話、結構聞きますが、実際そうなったときにどんな気持ちになるもんなんですか?」
肘「1割の痛みと、9割の感謝ですね。当然、多少は傷つくのですが、それよりも『失恋のネタをもっとおいしくしてくれてありがとう』、という気持ちが強い」
鈴「とんでもないパワー理論ですね」
肘「私は、彼からもらった一番のプレゼントが失恋だと思っているんです。そのおかげで、私は今こうして、色んなことを楽しくやりながら過ごせてるので」
鈴「後世に残したい名言がポンポン量産されていきますね」
第三章:マッチングアプリと虚無ガチャ
肘氏はその後、失恋フェスの名物コンテンツ「虚無ガチャ」を開始する。「虚無ガチャ」とは、マッチングアプリで会った男性に会いまくることで、幾度芳しくない結果を迎えても、「次こそもっといい人に会えるのでは」と新たな人に会うことをやめられない虚無感を、スマホゲームのガチャシステムになぞらえた言葉である。もちろん、肘氏オリジナルのパワーワードだ。
鈴「マッチングアプリでは、何人くらいの人と会ったんですか」
肘「2年で約40案件をこなしましたね」
鈴「2年で40人ってことは、かなりの頻度でやってますね」
肘「そうですね、多かったときは、数日おきに会ってた時期もありました。でも、一回ネットワークビジネスに勧誘されてから凝りて、休んだ時期があって」
鈴「マッチングアプリにはその筋の方も多いと聞きますが、実際にいるんですね」
肘「そうなんです。だいたいプロフィールや、メッセージのやり取りの“臭い”でわかるんですが、その人は気づけなかった。勧誘を受けながら、『さぁ、さっさと帰ってTwitterでネタにするぞ』と意気込んでいましたね」
鈴「当然、それもコンテンツにするんですね笑」
肘「はい、失敗した中でも特に地雷だった案件については、『虚無ガチャ案件集』として記録・まとめて、PDFデータにしてイベントなどで配っています」
転んでもただでは起きず、手についた砂すらコンテンツに昇華する肘氏の強さが垣間見える。ちなみに、「虚無ガチャ案件集」はすでにVol4まで出ていて、一部鈴木も拝見した。
マッチングアプリでのファーストコンタクトから、実際に会った時の会話、連絡を取らなくなるまでの一連の流れがこと細かに記されており、虚無サイドの男からみても、大変勉強になる文化資料だった。
第四章:肩書の原点「コミュ障ゆとり新人社員」
失恋フェスの話が面白すぎてどこまでも掘り下げたいが、ここで肘氏のコンテンツの原点となった肩書についても聞いていく。
鈴「最初につけた肩書きについて教えてください」
肘「最初に“コミュ障ゆとり新人社員“を名乗りました。私は普段、通信系の会社で営業をやっているんですが、新卒の時はあまりにコミュ障で友達がいなくて大変だったんです」
鈴「今の肘さんのバイタリティからはあんまりそう見えませんが……」
肘「根が非リアなんですよね。ある時、人から『その話面白いから、ネットに書けば?』と言われたのがきっかけで、ブログを書き始めました」
鈴「例えばどんな話を?」
肘「新人研修の最終日、同期はみんなでご飯に行ったけど、私は友達いないからアキバのメイドカフェに帰宅したよ、みたいな話を書いたら、すごく多くの反応をもらえて。変なこともコンテンツにすると楽しいな、って思ったのはここがルーツです」
鈴「なるほど、肘さんの孤独を救ったのが、肩書と発信だったんですね」
肘「そうなんです。ちなみに、『新入社員 コミュ障』で検索書けると私の記事が出てきます。毎年4月になると閲覧数がぐんと伸びますね」
肘氏の経験とコンテンツは、後世の新卒ぼっちの皆さんの心の支えになっているのだ。
第五章:メイドカフェに一人で通う「瞬足ご帰宅お嬢様ガチ勢」
続いては、現在肘氏が注力しているコンテンツ「メイドカフェ巡り」についてのお話。(実は今回の取材も、肘氏お気に入りのメイドカフェにて行ったのだ)
鈴「肘さんがメイドカフェに通うようになったきっかけは何だったんですか?」
肘「実はもともと、半年くらいメイドカフェで働いたことがあって。就活が終わって暇になったからやってみたんですが、途中で『私はキャストをやるよりも、メイドさんを見るほうが好きだな』と思ったんです。そこから、『瞬足ご帰宅お嬢様ガチ勢』を名乗り、メイドカフェに足繁く通うようになりました」
肘氏が管理人を務めているメディア「メイドカフェポータルZ」では、メイドカフェの御帰宅レポを発信している。肘氏による記事はもちろんのこと、全国にいる有志から色んなメイドカフェに行ったレポ記事が集まってくるらしい。
ちなみに、取材当日に我々が訪れたお店は「アキバ絶対領域」。メイドさんが、絶対領域※の見えるメイド服に身を包んでいるお店だ。
※絶対領域:スカート、ショートパンツなどのボトムスとニーソックスを着用した際にできるボトムスとソックスの間の太ももの素肌が露出した部分を指す萌え用語(wikiより)
肘氏のお目当ては、長らく推しているという“むぎさん”。肘氏は入店するや流れるようにむぎさん指名の「チェキ&ライブパフォーマンスセット」を注文し、
肘「やっぱりむぎちゃんはかっこいいなぁ!むぎちゃんに会うとクオリティオブライフが上がるなぁ!!むぎちゃんはかっこいいし可愛いので、ホントに最強の生物ですね!」
と惜しげもない愛を語っていた。
肘「こんな感じで、アキバの各所に推しがいて、瞬足で帰宅しています」
最終章:肘氏はどこへ向かっていくのか
数多くの肩書と共に、人生の全てをコンテンツに昇華する女、肘氏。そんな彼女の将来的な到達点はどこなのだろうか。
鈴「肘さんは色んなことされてますけど、最終的な到達点は考えているのですか」
肘「もともと失恋フェスも、『なにかコンテンツをやるぞ!』という感じではなく、せっかく失恋したんだから面白いことやろう、ってゴールを決めずに走り出したんです。ほかのコンテンツもそんな感じで、到達点ってのはあまり考えてなかったですね」
鈴「では、なにか野望みたいなものは?」
肘「いろんなことをやっているうちに、肘が悪ふざけでやっていることを周りが面白いと思ってくれて、さらにそれがお金になったらいいなという野望が出てきました」
鈴「それは素敵ですね!野望実現のための戦略はありますか?」
肘「先ほども話しましたが、今はまだ、原動力が『衝動』しかないので、野望を形にするためにも、何か一つのコンテンツを尖らせたいですね」
鈴「どのコンテンツを尖らせたいのでしょうか」
肘「今年は『メイドカフェポータルZ』を特に頑張ろうと思います。
メイドカフェの紹介ブログは、個人でやってらっしゃる人が多く、メイドカフェポータルZみたいにサイトとしてやっているところって少ないんです。
色んな人に記事を書いてもらっているので、いろんな方の視点でメイドカフェの紹介ができること、私はキャスト経験者の視点でブログを書ける分、アドバンテージがあるのではないかと。まずはメイドカフェブロガーとして有名になりたいですね」
肘氏はこれからも、何か新しいことを始めるたびに肩書を増やし続けるだろう。衝動のままに走り続ける彼女の人生が、最終的にどんな形になるのか、想像するだに楽みだ。
(肘氏による失恋フェスオリジナルソング&PVもある。そこには元気に瓦を割る肘氏が映っている)
最後に、肘氏に「ほかの人を好きになったけど別れたくない」などと訳の分からないことを言わない佐藤健似の彼氏ができることを心より願う。
(ふ凡社編集部)
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