日常のそこかしこに潜む魅力的な「ふ凡人」にその生きざまを聞く、シリーズ「ふ凡大陸」。
記念すべきトップバッターは、フリーライターの佐々木かえでさんだ。

佐々木さんは、個人ブログ「かえでのパンの皮」と、地元十勝の情報を発信する「あちこちトカチ」を更新しつつ、“おでかけ体験型メディア”の「SPOT」さん初めとする色んなサイトに記事を寄稿して活躍している。
個人ブログでは、アホみたいにデカいスイカを買って来て一人解体ショーをしたり、公園でハッカ油入りのバケツ水を被って震えたり、やはりアホみたいにデカいカレーの一気喰いに挑戦して敗北したりと、体を張ったアホティブな企画を繰り出す一方で、メディアではオシャレなクラフトビールのお店レポなんかもしっかり書いちゃう、素敵で素敵なライターさんだ。
2018年、時はライター戦国時代。星の数ほどライターが闊歩するこのご時世、フリーで一から固定のファンを作り、仕事を貰っている時点で超凄いと思うのだが、今回彼女に声をかけた理由はそれだけではない。
この人、やたらハンディキャップを抱えているのだ。
身体に纏った数々のディスアドバンテージをモノともせず、人を魅了するユニークな記事を発信し続けるエネルギッシュさは、まさにふ凡。その不思議な人物像に迫るべく、東京は秋葉原に向かった。
見た目は綺麗なお姉さん
「こんにちは~佐々木です」

笑顔が素敵な佐々木さん。腕を抑えているのは予防接種帰りだからではない
待ち合わせ場所に現れた彼女は、「普通に綺麗なお姉さん」だった。
声も物腰も静かで、巨大なスイカを掻っ捌く逞しい姿とはてんで結びつかない。もしかしたら、ネットでは変な人を装っているだけで、通常は超普通のおしとやかな人なのかもしれない。どうしよう。
鈴「佐々木さん、本日はよろしくお願いします」
佐「はい、お願いします」
鈴「せっかく秋葉なので、メイド喫茶に行きませんか。メイドに囲まれながら真面目なインタビューしている図が面白いのではないかと思うのです」
佐「行きましょう!大好物です!」
よかった、やっぱり変な人だった。
某大手メイド喫茶に入ると、一人のメイドさんがステージに立ち、大声で「大声ダイアモンド」を歌いながら踊りまくっていた。どうやら、ちょうどパフォーマンスタイム中に“入国”してしまったらしい。
鈴「早速ですが佐々木さん(大声)」
佐「はい(大声)」
鈴「まずどんなきっかけでブログを始めたか・・・(大声)」
メイド「大好きだ!!!!キミが大好きだ!!!!!!!!(大声)」
佐「可愛い!!!!!!!!」
鈴「可愛い!!!!!!!!」
終始こんな具合だったので、早々にインタビュー断念。メイドさんに美味しくなる魔法をかけてもらったオムライスを2人で「ウマいだすウマいだす」と言いながら平らげ、そそくさと出国する。

ケチャップで描いてもらったおんぷちゃんにはしゃぐ佐々木さん(猫耳は入国の混乱に乗じていつのまにか装着された)

同じく混乱に乗じてトナカイの耳を装着された鈴木(300×200ピクセル)
その後、知る人ぞ知るイタリアンの名店に入りなおし、インタビューを再開する。
綺麗なお姉さんの皮に隠された苦悩
鈴「改めまして、ブログを始めたきっかけを教えてください」
佐「はい。まず、タグを書き出してみていいですか?」
鈴「・・・タグ?」
佐「ええ。実は私、結構色んなものを抱えていまして。ライター始めた話にもつながるので、ハッシュタグっぽくお伝えしようかと」
鈴「そんなライトな感じで大丈夫!?」
佐「笑。いいんです。では行きますね」

スマホを見つつ、タグを書き出していく佐々木さん
佐「まず適応障害。そしてADHD。これは約束の時間を守れなかったりしちゃうやつです」
鈴「最近話題にもなっていますね」
佐「はい。それからHSP。音とか光とかに普通の人より敏感です」
鈴「刺激に対して人一倍反応しちゃうんですか」
佐「そうですね。人とずっと話してると頭が痛くなったり、人込みにいるとすぐ疲れちゃったりするんです。にもかかわらず、逆に刺激を求めすぎちゃうHSSも持っています。騒がしい場所に行きたくなったり、食べ物に香辛料めっちゃかけたり」
鈴「そんなことあります!?」
佐「はい(苦笑) HSPとHSSを同時に持ってる人は珍しいらしいです。続いて特定不能の解離性障害。自分が別人格になったような感覚になる時がありますね。それからそれから・・・」
鈴「ちょっと、佐々木さん、ちょっと待ってください」
佐「はい」
鈴「・・・タグ、多くないですか?」
佐「そうなんですよ。他にも、ここでは言えないものもいくつか。」
鈴「なるほど・・・あの・・・なんと言いますか・・・」
佐「いいですよ笑 言っちゃってください」
鈴「・・・生きるの、大変じゃないですか?」
佐「そうなんです!私、人間に向いてないんですよ(笑顔)」

守りたいこの笑顔
そう。佐々木さんは人間に向いていないのだ。
人間に向いてないのに、なぜライターを?
聞けば、ハンデの数々は全てお医者さんのお墨付き。彼女が内側にうごめく様々な混乱のために、かなり大変な人生を送ってきたのは想像に難くない。なのに、なぜ明るく生きていられるんだ!不思議!
改めて聞きたいことは一つである。
鈴「なんで、数ある生き方の中で、ライターを選んだんですか?」
佐「普通そう思いますよね(笑)」
鈴「えぇ。自分を晒して行く仕事って、正直佐々木さんには人一倍ハードルが高そうなのに、と思いました」
佐「始めたきっかけは、姉に対する劣等感からでした」
鈴「お姉さんへの?」
佐「はい。姉は、文筆家として活動しているんですが、彼女は頭もいいし、高校生の時書いた文章が賞なんか取っちゃうし、ミス学校に選ばれたこともあるし、とにかく何でも出来る人で」
鈴「凄い方ですね!」
佐「一方私は、こんな感じでいつも不安定な状態だったから、学校に行かなくなっちゃったり、何か不具合があるたびに『かえでは○○だから』ってレッテルを貼られてばかりで。劣等感が凄かったんですね」
鈴「うーん、それは辛い」
佐「だから、何か自分の実力で外に出て実績作って、『私だってちゃんとやれるんだ!問題抱えてるからって関係ない』ってのを証明するしかないなと思って」
鈴「ディスアドバンテージの分、反骨心から来る自己実現欲がいっそう強かったんですね」
佐「そうです!ただ、私は人前で話したり、その場で頭を整理するのが苦手なので、どのジャンルだったら行けそうか、って消去法で考えて残ったのがライターだったんです」
鈴「元々ライティングがめっちゃ好きだったってわけでもない、ってのが面白いですね。実際に、やり始めてどうでしたか?」
佐「最初は十勝のブログを始めて、十勝に関する色んなお店を紹介したりしてました。やってみて、これならなんとか自分でも続けられそうだなって思いましたね」

十勝で巨大スイカに手をかけるかえでさん
鈴「仕事としてメディアに掲載するようになったきっかけは?」
佐「ツイッターでブログを見てくれた先輩ライターが、『SPOTで書いたら?』って薦めてくれて。私からSPOTさんに企画を提案する形で始まりました」
鈴「そこからネットワークが繋がっていったんですね。ライターとして火がついたタイミングってありますか?」
佐「私、今年の5月に上京してきたんですけど、上京一発目の仕事が島根県の『ナマステカレー』ってカレー屋さんの取材だったんです。このお店、店主の書く貼り紙が可愛いってツイッターでバズってて、実際にお店に行ってレポート記事を書いたんです」
鈴「32万リツイートとかされてた店ですよね」
佐「はい。ライターの大御所ヨッピーさんが編集してくれたこともあって、私の記事もバズりました。嬉しかったですね。反応もたくさん来るし、ライター楽しいじゃんって」
鈴「一発跳ねると、やっぱり次のモチベーションになりますよね」
佐「そうですね。それからSNSつながりで友達もたくさんできて、自分の世界が広がって。今に至ります」
非凡への道を考える
佐々木さんのハード&タフネスな過去が明かされたところで、このブログの趣旨でもある「いかに非凡に近づいていくか」、一緒に考えるパートへ突入する。
鈴「いろいろ話してくれてありがとうございます。その上で、佐々木さんの野望を教えてください」
佐「大物になりたいですね」

野望を秘めた、この笑顔
鈴「ストレートですね(笑)。素敵です!そのために、これからどんな戦略を?」
佐「とにかく発信する記事を増やして、SNSで露出を増やしたり、地道にやっていくのが第一かと」
鈴「大事ですね。ただ、このやり方って正攻法だと思うんですけど、正攻法の効果って堅実な分、速度がゆるやかじゃないですか」
佐「そうなりますよね」
鈴木「となると、ライターとして突出したステージに上るためには、正攻法をやりつつ飛び武器も狙う必要があるんじゃないかとも思うんですが、どうでしょう?」
佐「うーん。確かに。ただ、飛び武器が成功して何かのコンテンツがバズっても、一回きりで終わってしまうことも多いですよね」
鈴「それはあると思います。ツイッターやブログだと、誰かが作ったコンテンツを掘り出して紹介する形で何万回と拡散されるパターンもありますが、その人自身のブランディングに繋がるかと言われるとそれは別の話ですもんね・・・」
佐「はい。せっかく多くの人が自分のアカウントを覗いてくれるチャンスを得ても、その先に独自のコンテンツが無いと」
鈴「ライター業は誰でも始められる分、母数がたくさんいるので、その中で独自性を出していくって超ハードル高いですよね。佐々木さんは、ご自身のライターとしての独自性って何か意識してますか?」

フリー素材の温州みかん
佐「うーん。何だろう。そう言われると何か強烈な強みがあるというわけではないというか…。体を張ったアホな記事を書くこと自体は好きなんですけど、それだけだとちょっとインパクトに欠ける気もしますね」
鈴「そうですか・・・。今日佐々木さんの話聞いてて、大量にハンデを抱えてること自体が超ユニークなんじゃないかと思いました」
佐「あ!そう言われればそうかも!」
鈴「これだけ多くのディスアドバンテージを持ちながら、快活に何かを発信してる人って珍しいと思うんです。だから、『タグのデパート状態』って特性を逆手にとって、ライターとしてハンデを抱えてる人向けのライフハック的なコンテンツを作ったら強そうじゃないですか」
佐「タグのデパート!(爆笑)」

鈴「すいません、パワーワード出ちゃいました」
佐「いや、いいですね、それ、使います(笑)確かに、色んなものを抱えてる分、色んな角度から同じ悩みを持った人たちにアプローチできるかも!」
鈴「マイノリティなジャンルでライターとしてのブランドを確立した上で、実はアホな企画もやってますってなったら、ギャップがプラスされて、さらに話題を集めそう」
佐「なるほど!なんか見えてきました。そっか、タグを使ってみれば良いんだ。これまで、ハンデの話を誰かにするたびに『大変だったね』みたいな同情をされたり、気を遣われたりするのが苦手だったんです。どうしても『この人○○だから』ってフィルターを通したコミュニケーションになっちゃうので」
鈴「うーん、わかる気がします」
佐「確かに大変でしたし、それがあったから今の自分がある、なんて思いもありません。大変なことなんてない方がいいに決まってます。でも、実際当人は受け入れて今楽しく生きてるんですよね。今の私を見てほしいんです」
鈴「重たい言葉ですね・・・!同じ悩みを抱えてる人にも響くと思います」
佐「はい!ライターとして、ハンデがたくさんあったって楽しく生きていけるぜ、ってことを証明したいですね。よしそれで行こう」
鈴「佐々木さんタフネス!強い!イケメン!」
こうして、隙間建設的な議論が交わされ、私たちはお互い一つ「ふ凡の階段」を登った。

フリー素材の「ソファーのある部屋2」
実りあるインタビューはここでおしまい。そこから我々は流れるように猥談に移行し、知る人ぞ知るイタリアンの名店に数時間居座って、性の神秘を解き明かすグレートジャーニーを楽しんだ。
やっぱり佐々木さんは変な人だった。
「人間に向いて無さ」という新たな武器を手にしたライター・佐々木かえでの、今後の飛躍がウルトラ楽しみだ。

ふ凡社編集部 鈴木
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